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憲法

平成28年予備試験 憲法論文

答案例1

第1 Xの主張
1 助成の要件として本件制約書を提出させること(以下、「本件処分」という。)は本件制約書の内容を誓約しない自由(以下、「自由1」という。)を侵害し、違憲であると主張する。
(1) まず、「思想及び良心」(19条)とは、個人の人格形成に必要な内面的な精神作用と解するところ、法律婚をするか否か、いつ誰と婚姻をするかの判断は個人の私生活における重要な判断であり、人格形成に大きく影響を及ぼす。そして、出会いの場を提供する者の考え方は提供される側に影響を及ぼす。よって、自由1は同条により保障される。
(2) 次に、本件処分に従わなければ本件助成が受けられず、Xの活動が困難となるので上記自由に対する制約がある。
(3) また、思想・良心の自由は内心に留まる限り絶対的に保障され、直接的な制約が許されない。よって、本件処分は同条に反し、違憲である。
2 本件処分はXが自己の活動方針に沿って活動する自由(以下、「自由2」という。)を侵害し、違憲である。
(1) まず、Xは結婚支援事業という共通目的のために継続的に集まった人の集団であるから、「結社」といえ、自由2は21条1項で保障される。また、法人は権利の性質上可能な限り人権享有主体となるところ、権利の性質上、法人も自由2の享有主体となる。
(2) 次に、自由1と同様に自由2に対する制約がある。
(3)
ア そして、自由2は団体活動を通じて自己の人格を発展させる自己実現の価値を有する重要なものである。また、本件処分に従わなければ本件助成を受けられず、活動資金の大部分を本件助成が占めているXは事実上営業ができなくなるので、規制態様は強度である。そこで、厳格に判断する。
(4) これを本件についてみると、本件処分の目的は安心して家庭や子供をもつ社会を実現することである。家族の形態が多様化している現代社会においては法律婚という形が安心した家庭環境であるとは限らない。よって、目的と適合しない。また、法律婚をするか否かはカップルの問題であり、結婚支援事業者に法律婚の推奨を求めることは、目的との関係で必要性が低い。よって、本件処分は正当化されない。
3 以上より、本件処分は21条1項に反し、違憲である。
第2 反論
1  
(1) 自由1は結婚支援事業者の自由であるから、個人の人格的形成とは無関係である。よって、19条で保障されない。
(2) 仮に、保障されるとしても、本件制約書を提出しない選択肢があるから、上記自由に対する制約はない。
(3) よって、本件処分は19条に反しない。
2  
(1) 自由1と同様に自由2にも制約がない。
(2) 本件助成の決定についてはAに裁量が認められるから、自由2の重要性は相対的に低下する。また、Xは本件助成を受けずに活動する選択肢があるので、規制態様は強度とはいえない。そこで、緩やかに判断すべきである。
(3)  
ア 法律婚により経済的安定がもたらされ、その結果精神的も安定する。そうであれば本件処分は目的と適合する。
イ また、結婚支援事業において募集段階で法律婚を推進する旨を表明すれば法律婚を希望する者が集まり、法律婚が推進されるので、結婚支援事業者に本件制約をさせる必要性は高い。
(4) よって、本件処分は21条1項に反しない。
第3 私見
1  
(1) 自由1について、原告の主張するとおり、どのような家族形態を選択するかは個人の人格形成に必要な内面的精神作用と密接に関連する。そして、結婚支援事業者はカップルを引き合わせるという重要な役割を担っているので、Xの家族形態に対する考え方も同様な精神作用といえる。よって、自由1は19条で保障される。
(2) しかし、本件制約書は本件助成ために提出する書類にすぎず、Xの事業内容や思想内容に強制的に影響を与えるものとはいえない。よって、自由1に対する制約が認められない。
(3) よって、本件処分は19条に反しない。
2  
(1) 原告の主張通り自由2は保障される。
(2) 本件処分に従わなければ、本件助成が受けられないので、Xは事実上本件処分に従わざるを得ない。よって、上記自由に対する制約がある。
(3) もっとも、上記自由は無制約ではなく公共の福祉(12条後段、13条後段)による制約を受ける。そこで、上記制約が公共の福祉による制約として正当化されるか。
ア 原告の主張するとおり自由2は自己実現の価値を有するが、被告の主張する通り自己統治の価値が希薄である。また、被告の主張する通り、権利の重要性は相対的に低下する。さらに、たしかに本件処分は営業そのものに対する制約ではないが、Xの活動資金の大半が本件助成であることから、事実上本件処分を強制される。よって、規制態様は強度である。そこで、中間審査基準で判断する。具体的には目的が重要で、手段と目的に実質的関連性があれば正当化されると解する。
イ これを本件についてみると、まず、本件処分の目的は原告主張の通りであるところ、安心して家庭や子供をもつことができれば家族とのふれあいを通して喜び悲しみを共有して助け合って生活でき、人間の幸福追求(13条参照)に資するので、重要である。
ウ 次に、法律婚は、事実婚より相続権や社会保障等において優遇されている面があることを考慮すれば、法律婚の推進による家庭の経済的安定が実現でき、その結果子供を育てやすくなり、生活が向上するので、目的との関係で適合する。
エ しかし、原告主張のとおり、法律婚を選択するか否かは最終的にカップルの意思で決まるので、結婚支援事業者に法律婚を推進するよう制約させることは必要性が低い。よって、正当化されない。
3 以上より、本件処分は21条1項に反し、違憲である。

解説

答案例1において、Xは思想・良心の自由及び結社の自由を侵害されたと主張する。しかし、出題趣旨によれば消極的表現の自由及び結社の自由での記述が求められていた。

思想・良心の自由と構成することによる問題点は人権享有主体性にある。すなわち、Xは法人であるから思想・良心の自由の人権の享有主体ではないと考えられる。

もっとも、本試験では思想・良心の自由の解答した人が相当数いたと思われる。

答案例2

第1 Xの主張
1 誓約書の提出の違憲性
(1) 本件要綱は、Xの本件誓約書の思想内容を表明しない自由を侵害し、違憲であると主張する。
(2) 本件誓約書は法律婚を推進することを表明させるものである。しかし、Xは法律婚だけでなく、事実婚も推進するなど、結婚の形にこだわらない方針を有している。そこで、本件誓約書の提出はXの思想と相いれない思想の表明させるものである。ところで、21条1項は表現の自由を保障している。そして、自己の思想内容と異なるものを表現しない自由、すなわち消極的表現の自由は、表現の自由と表裏をなすものと言える。よって、消極的表現の自由は同項で保障されると解する。したがって、Xの本件誓約書を提出しない自由は同項で保障される。
(3)
ア 精神的自由権である表現の自由は侵害されると民主政の過程で回復が困難であるから、重要な権利である。
イ そして、本件条例により本件誓約書を提出しなければ既に受けている助成を受けられなくなる。そこで、強度な制約と言える。
ウ そこで、厳格な審査基準で審査すべきである。具体的には目的が必要不可欠で、手段が、目的達成のために必要最小限度でなければ違憲となると解する。
(4)
ア 本件条例の目的である少子化対策は必要不可欠である。
イ しかし、法律婚の推進が少子化対策に効果的とは言えない。法律婚が経済的安定をもたらすという論理は、片親より、両親がいる方が収入面で勝るという考えに基づくものとされる。しかし、片親でも、養育費という形で援助を受けられるし、行政の支援も優先的に受けられる。また、女性の社会進出が進められている今日では片親というだけで、経済的に不安定という決めつけできない。そして、経済的安定を目的とするならば、法律婚を推進するのではなく、就労支援、手当、公営住宅確保、保育所の充実等の方法でより実効的な政策できる。よって、手段が必要最小限度とは言えない。
(5) 以上より、本件要綱に基づく誓約書の提出を求めることは違憲である。
2 助成が受けられないことの違憲性
(1) 本件要綱により、本件誓約書を提出しないことによる助成の打ち切りが、XのNPO法人の活動をする自由を侵害し、違憲であると主張する。
(2) NPO法人を運営する自由は結社の自由(21条1項)として保障される。
(3)
ア NPO法人Xの活動を通して、人々の交流を支援し、社会貢献することで自己の人格を形成する自己実現の自由が実現される。よって、NPO法人Xを運営する自由は結社の自由として重要な権利である。
イ そして、Xは本件条例の制定当初から助成を受けており、かつ活動資金の大半を助成で賄っている。よって、本件誓約書を提出しないことにより、助成が打ち切られればXの活動資金はなくなり、活動ができなくなる。そこで、規制態様は強い。
ウ そこで、厳格な審査基準で審査すべきである。
(4)  前述の通り、目的は必要不可欠だが、手段が必要最小限度とは言えない。
(5) よって、本件要綱に基づく誓約書の提出を求めることは違憲である。
第2 反論及び私見
1
(1) 被告の反論
本件要綱が消極的表現の自由を侵害する面があることは認める。しかし、規制態様は強くない。本件誓約書の提出は助成を受けるための要件に過ぎない。そして、助成は行政の専門技術的判断の下で行われる。よって、助成をする要件はA市に裁量がある。よって、助成にあたって本件誓約書の提出を要件とすることはAの裁量の範囲内である。また、Xは助成を受けなければ本件誓約書を強制されないので、規制態様は強くない。よって、審査基準を緩めるべきである。
(2) 私見
助成を受けなければ本件誓約書の提出は強制されないという被告の反論は認められると考える。もっとも、Xの活動は助成にたよっていた事実があるので、Xにとっては本件制約書の提出は活動を継続する上で、事実上強制されると言わざるをない。その反面、本件制約書を提出しても、Xの活動が制限されることはない。よって、規制態様は原告の主張するほど強くない。そこで、中間審査基準で審査すべきである。具体的には目的が重要で、手段との間に実質的関連性がなければ違憲となる。
2
(1) 被告の反論
本件要綱に基づく助成は限られた財源の中で行う給付行政であるから、行政に裁量が認められる。福祉国家の政策は税収が主たる財源であるから、少子化により若い世代の負担が増加すると政策が成り立たなくなる。そこで、行政による専門技術的な政策が必要である。また、結婚をしていない状況で子供を出産するより、結婚した状態で子供を出産する方が扶養等の社会政策上の恩恵が受けやすいことを鑑みると、法律婚の推奨が少子化対策に効果がないとは言えない。
(2) 私見
少子化対策のために法律婚の推奨をすることは目的と手段との間に有効性がない。少子化対策であれば、結婚をしていない状況でも子育てがしやすいように環境を整備することが地方時自体の役割である。原告の主張するように他の手段があるので、目的と手段との間に実質的関連性がない。
3 以上より、本件要綱に基づく誓約書提出を求めることは違憲であると考える。

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