答案例
第1 設問1
1 ①の逮捕(以下、「①逮捕」という。)は平成28年3月23日の逮捕及び同月25日の勾留後の釈放に続くものであるところ、かかる逮捕は許されるか。再逮捕の可否・要件が問題となる。
(1) 被疑者に対する身体拘束の厳格な時間制限を定めた刑訴法の規定(203条ないし206条)に鑑み、再逮捕は原則許されないと解する。もっとも、一切許されないとすると、身体拘束による捜査の実効性の確保及び真実発見(1条)の見地から妥当でない。また、再逮捕を予定した規定(法199条3項、規則142条1項8号)がある。そこで、a再逮捕の必要性があり、b被疑者の利益を考慮してもなお再逮捕がやむなしといえ、c不当な蒸し返しといえない場合には例外的に再逮捕が許されると解する。
(2) これを本件についてみると、
ア 甲の釈放後に甲が盗品を売却したことが判明したところ、確かに犯行から4日後に売却しているので、公判前整理手続の主張のとおり、甲が盗んだものでないとも考えられる。しかし、彫刻は一般に流通性の高い物ではないので、窃盗から売却まで数日経過することも考えられ、盗品の近接所持という甲の犯人性を推認させる事実(間接事実)を認定できる。よって、再逮捕の必要性があった(a)。
イ 本件被疑事実は放火罪及び窃盗罪という重大事件である。そして、甲が被疑事実を一貫して否認していた。よって、逃亡や罪証隠滅の防止のために、甲に不利益を課してもなお再逮捕してもやむなしといえる(b)。
ウ 先行逮捕・勾留では長期間甲を拘束しているので、①逮捕による甲の負担は過度である。しかし、新証拠発見の事実及び被疑事実の重大性を考慮すれば長期間の逮捕・勾留に続く逮捕もやむをえないといえる。よって、不当な蒸し返しとはいえない(c)。
(3) よって、再逮捕の要件を充足するので①逮捕は適法である。
2 ①の勾留(以下、「①勾留」という。)は適法か。再勾留の可否・要件が問題となる。
(1) 身体拘束の厳格な時間制限を定めた規定(208条、208条の2)の存在及び再勾留を前提とする規定が存在しないことに鑑み、再勾留は原則許されないと解する。もっとも、勾留は逮捕に続く手続きである(逮捕前置主義)から、再逮捕を許容する規定がある以上再勾留も認められる余地がある。そこで、再逮捕と同様の基準で再勾留の可否を判断する。もっとも、勾留は逮捕に比べて身体拘束期間が長いので、かかる基準は厳格に解する。
(2) これを本件についてみると、
ア ①逮捕の場合と同様、a及びbの要件は充足する。
イ しかし、勾留期間は逮捕期間に比べて長いので、先行逮捕・勾留で長期間身柄拘束された甲に対する再勾留を認めることは不当な蒸し返しといえる。
(3) よって、再勾留の要件を充足しないので、②勾留は違法である。
第2 設問2
1 犯人性は刑罰権の存否及びその範囲を画する事実(主要事実)であるから、かかる立証には厳格な証明(317条)が必要なところ、犯人性を推認させる前科事実(間接事実)の立証も主要事実と同様に厳格な証明が必要であると解する。そこで、前科事実を立証する証拠である、②の判決書謄本(以下、「②」という。)に証拠能力が認められるか。前科による犯人性の立証の可否が問題となる。
(1) 一般に同種の前科には関連性が認められるが、前科による犯人性の立証は前科によって被告人の悪性格を推認し(一段目)、悪性格から犯人性を推認する(二段目)という二段階の推認過程を経る。そして、二段目の推認力は弱いにもかかわらず、不当な偏見をもたらす危険性が高い。よって、前科による犯人性の立証は原則許されないと解する。もっとも、かかる悪性格の推認過程を経ることなく、不当な偏見の危険性を上回る強い推認力が認められ、犯罪事実の存在を合理的に判断できる場合には例外的に許されると解する。
(2) これを本件についてみると、
ア ウィスキー瓶にガソリンを入れ放火し、その際に美術品の彫刻を盗むという点で、本件被疑事実と本件前科は相当程度類似する。
イ また、ウィスキー瓶及びガソリンは一般に入手が困難なものではない。そして、美術品の彫刻は高価と考えられるから、窃盗の被害品として珍しいとはいえない。
しかし、かかる放火方法とこれと同時に行う美術品の窃盗があいまって、本件前科は顕著な特徴を有するといえる。
(3) よって、本件前科の存在により、甲の犯人性を合理的に判断できるので、②に証拠能力が認められるとも思える。
2 もっとも、②は公判期日外の供述を内容とする証拠であるから、伝聞証拠として証拠能力が否定されないか。伝聞証拠の意義が問題となる。
(1) 伝聞法則(320条1項)の意義は、供述証拠は知覚・記憶・叙述の過程を経て証拠化されるところ、いずれの過程にも誤りが介在するおそれがあるので反対尋問等による吟味が要請されるところ、伝聞証拠にはかかる吟味がなしえない点にある。そこで、伝聞証拠とは公判期日外の供述を内容とする証拠でその内容の真実性を立証するために使用・提出されるものを指すと解する。
(2) これを本件についてみると、②は甲の犯人性の立証との関係で内容の真実性が問題となる。
(3) よって、伝聞証拠にあたる。
(4) もっとも、②は裁判所書記官という「公務員の作成した書面」(323条1号)に該当するので、伝聞例外として証拠能力が認められる。
3 以上より、②を用いることが許される。