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労働法

平成29年司法試験 労働法論文第2問

答案例

第1 設問1
1 X1、X2及びX11(以下、「X1ら」という。)は本件労働協約中の、A組合に加入しない者、A組合から脱退した者又は除名された者を解雇する協定(ユニオンショップ協定)が無効であると主張する。そこで、ユニオンショップ協定(以下、「ユシ協定」という。)は有効か。
(1) ユシ協定は労働組合に強制的に加入させて組織の維持強化に資する。また、憲法28条は労働者の消極的団結権までも保証しているとは解されない。よって、ユシ協定は原則有効であると解する。もっとも、労働者に組合選択の自由がある。また、ユシ協定を締結していない労働組合の団結権を保障すべきである。そこで、労働者が他の組合に加入し、又は新たな労働組合を結成する場合に使用者に解雇義務を課す部分は民法90条により無効であると解する。
(2) これを本件についてみると、
ア X1の解雇時、X1はA組合に属せず、他の組合に加入又は新たな労働組合を結成していない。よって、本件解雇は有効であるとも思える。しかし、X1は平成28年12月15日付の脱退後、同年中に新たな組合であるB組合を結成する予定であった。しかし、A組合の警告文により他の組合員の脱退が遅れ、その結果B組合の結成が遅れた。そうであればX1の解雇時、A組合の行為がなければB組合に加入していた可能性が高い。よって、X1は正当な理由に基づき組合に加入していなかった。そして、ユシ協定の趣旨が労働組合の維持強化にある点に鑑みれば、正当な理由に基づいて組合に属さない組合員は本件ユシ協定に基づく解雇の対象とならないと解する。よって、本件解雇には理由がなく、無効である。
イ X2の解雇時、X2はB組合に加入していたので、本件解雇は無効である。
ウ X11は解雇時に労働組合に加入していないので、本件解雇は有効であるとも思える。しかし、労働組合に加入していない者は他に4名いるところ、これらの者は解雇されていない。また、A組合はX11に対し、集団脱退の扇動した立場にあることを理由に解雇している。そうであればA組合はX11に対し、ユシ協定を利用して集団脱退の扇動に対する制裁のみせしめ的に解雇されたと考えられる。そのため、本件解雇は平等取扱いの原則(労基法3条参照)に反し無効である。
(3) 以上より、X1らの解雇は無効である。
2 よって、X1らの請求は認められる。
第2 設問2
1 Y社の対応は団交拒否(労組法7条2号)にあたるか。
ア 団交拒否といえるには、交渉事項が義務的団交事項である必要がある。そして、義務的団交事項とは、労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に解決可能な事項をいう。これを本件についてみると、X1及びX2の解雇に関する事項は労働者の待遇に関する事項で、B組合のためのスペース確保は団体的労使関係の運営に関する事項であり、いずれもY社が解決可能な事項である。よって、B組合の要求内容は義務的団交事項に関するものである。
イ そこで、Y社の対応に「正当な理由」が認められるか。
(ア) ある労働組合のみと交渉する旨の労働協約は、労働者の組合選択の自由を事実上奪うものであるから、無効であると解する。よって、回答(1)は正当な理由であない。
(イ) 解雇の効力を訴訟で争えば終局的な解決が可能である。しかし、訴訟は当事者の経済的・身体的負担の大きい行為であり、労働者であればなおさらである。そうであれば、訴訟によらずに解決することが労働者の利益に資する。また、かかる労働者の弱い立場を保護するために、労組法は労働組合が使用者と交渉する権利を保護している。また、訴訟係属中に使用者と労働者で訴訟外の和解が成立する余地もある。よって、回答(2)は「正当な理由」にあたらない。
(ウ) 本件ではA組合とB組合でY社から提供されるスペースにつき異なる扱いがなされている。そこで、かかる扱いがB組合に対する誠実交渉義務違反になるかという問題が生じる。この点、使用者は各組合に対し中立保持義務を負っているが、各組合との交渉において組合ごとに扱いの差異が生じることは団体交渉による当然の結果であるから、許容される。そこで、誠実交渉義務違反となるのは、合理的理由のない差異が生じた場合であると解する。
これを本件についてみると、B組合に提供するスペースが物理的になければ、交渉する実益はないとも思われる。しかし、労使交渉の中で互いに妥協案を模索することで、B組合の要求通りのスペースが認められなくても、他の掲示板スペースの確保や、A組合との共同事務所という代替案で落ち着く可能性がある。また、スペースの確保が困難だとしてもY社はその理由を具体的に説明する義務を負っている。かかる事情の下、交渉自体を拒否することは、Y社が真摯にB組合に向き合っていないことを示唆する。よって、Y社の扱いに合理的理由がないから、回答(3)は「正当な理由」にあたらない。
2 以上よりY社の対応は団交拒否にあたる。

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