答案例1
第1 設問1
1 Aは甲が本件内容証明郵便を送付後に本件許可を留保したことが違法であると主張する。
(1) 国賠法上の違法の判断基準として行政活動の法規範適合性が重要であるから、行為に着目すべきである。また、行政事件訴訟法と国賠法は制度趣旨を異にするから、違法性の判断は別個になされるべきである。そこで、違法とは職務上尽くすべき注意義務が尽くさなかったことをいうと解する。
ア これを本件についてみると、本件申請は法所定の要件をすべて満たしているから、その申請に対し許可を留保することは原則許されない。
イ よって、Aは許可の留保は職務上尽くすべき応答義務に違反し、違法であると主張する。
(2) これに対し、甲は、留保が法の目的趣旨に照らし社会通念上合理的であると認められる場合には許され、違法とならないと反論する。
ア そこで、Aは、申請者が行政指導に従わないことを真摯かつ明確に表明した場合に、行政指導への不協力が社会通念上正義の観念に反する特段の事情がない限り、その時点以降の留保は違法となると主張する。
イ これを本件についてみると、Aは本件内容証明郵便の送付により本件行政指導に従わないことを明確に表明している。また、Aは住民に対する説明会を実施し、本件提案に基づき住民に見学の機会を提供していた。他方、建築資材の高騰によりAの経営状況を圧迫するおそれが生じていたので、Aは早期に許可を得たいという事情があった。そのため、真摯な表明といえる。
ウ これに対し、甲は説明会で(ア)及び(イ)の事情があったことを踏まえると、住民の不信感を取り除いていないので、本件郵便送付時点では真摯な表明があったとはいえないと反論する。また、本件行政指導は住民の不安除去という目的を有していたところ、かかる状況での本件許可処分は住民の不安除去という公益は建築資材高騰というAの不利益より大きいから、行政指導への不協力は正義の観念に反する特別の事情があると反論する。
エ しかし、Aは(ア)の説明会では虚偽の説明はしておらず、(イ)の説明会に参加できなかった者にもその後に安全性に関する説明を尽くしている。そうであれば真摯な表明である。また、Aの説明の経緯を踏まえると上記公益は小さいから、上記特別の事情は認められない。
2 以上より、Aは上記主張をする。
第2 設問2
1 原告適格は「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)に認められるところ、「法律上の利益を有す者」とは、処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害される恐れのある者を指す。そして、処分の根拠となる行政法規が、不特定多数人の具体的利益を専ら一般的公益に吸収解消するにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護する趣旨であれば、かかる利益は法律上保護された利益といえると解する。
2 C1の利益としては、果樹園で地下水を利用して高級ぶどうを栽培するという財産権が考えられる。
(1) しかし、法15条及び本件規則にはかかる権利を保護する趣旨が読み取れない。
(2) よって、法が上記利益が保護する趣旨を有するとはいえない。
3 また、C1及びC2の利益としては地下水の利用によって生命健康が害されない権利が考えられる。
(1) 本件許可の根拠である法15条では本件規則に基づく調査結果を本件申請時に添付することを求めているところ、地下水にかかる周辺住民への影響を調査項目して挙げられている(11条の2第1号)。また、法15条が含まれる法全体の法解釈の方向性を示す法1条は生活環境の保全を目的としている。また、法15条6項は利害関係者の意見提出権を認めているので、本件許可が名宛人以外に重大な影響をもたらすこと前提としている。よって、法は有害物質により直接的に生命健康の被害をうける恐れのある周辺住民の生命健康を保護する趣旨であるといえる。
(2) これを本件についてみると、有害物質が地下水に浸透した場合にC1に到達するおそれがあるものの、C1は地下水を飲用していない。また、対象地域に居住していない。よって、C1は直接的に生命健康が害される恐れがあるといえず、法律上保護された利益を有しない。
(3) C2は有害物質が到達するおそれはないものの、その居住地は対象地域に指定されているから、生活環境への影響を受ける蓋然性がある。さらにC2は地下水を飲用している。よって、C2は直接的に生命健康が害される恐れがある。そのため、法律上保護された利益を有し、それが必然的に侵害される恐れがある。
4 以上よりC1は原告適格が認められないが、C2は認められる。
答案例2
第1 設問1
1 AがBに対し内容証明郵便を送付した時点から違法になると主張する。
2 Aの主張
(1) 行政に要件裁量がない場合、要件該当時に直ちに許可処分をしなければならない。
(2) 本件では法及び本件規則の要件を満たしている。
(3) よって、許可要件に満たした時点で許可をしなければ違法である。
3 Bの反論
(1) 法15条2は、「許可をしてはならない」場合を規定している。よって、法15条の21項に該当しなくても、許可をしなければならないわけではない。したがって、行政に要件裁量がある。
(2) よって、直ちに許可をせず、行政指導により処分を留保しても直ちに違法とならない。
4 Aの主張
(1) 本件許可の周辺住民への影響を考慮すれば、行政が住民との円満解決を促すため行政指導をし、それを理由として処分を留保することは合理的な限度である限り違法とは言えない。しかし、申請者が行政指導に従わないことを真摯かつ明確に表明し(①)たあとは、申請者の不利益を許可留保により公益を比較して、行政指導に対する不協力社会通念上正義に反する事情がない(②)限り、行政指導による留保は違法となる。
(2)
ア 本件ではAはBに対し、行政指導に応じない旨を内容証明郵便で送付している。また、送付前に説明会を開催して住民と解決を図っていた(①)。
イ また、処分の留保により建築資材の価格が上昇していた。資材の価格が上がっても、建築代金を直ちに値上げすることはできないので、Aに重大な損害が発生していた。そして、内容証明郵便送付前に、Aは住民への説明会を開催したが、住民の賛同は得られなかったので、処分の留保による住民との円満解決可能性は低くなっていた(②)。
ウ 以上より、Bの処分留保は違法である。
5 Bの反論
(1) Aは内容証明郵便送付後に、Bの再度の行政指導に応じていたので、行政指導に従わない旨が明確に表明されていたわけではない。
(2) Aは説明会で、住民を装ったA社従業員を参加させ、反対住民が十分に参加できないような会場にした。これにより住民の不信感が高まったので、Aが説明を継続する必要があった。よって、社会通念上正義に反する事情があり、許可を留保したことは違法とならない。
第2 設問2
1
(1) 法律上の利益(行訴法9条1項)を有する者とは、処分により個人の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者をいう。
(2) そして、この判断は行訴法9条2項を基に判断する。
2
(1) 法の趣旨目的
ア 法1条は生活環境の保全を図るとしている。この目的を達するために、法15条で許可制としている。そして、法15条3項の委任を受けた規則11条の2第6号では住民の身体・生命に影響がある項目を調査項目としている。
イ よって、住民の身体・生命は公益に吸収解消されず、個々人の利益として保護される。
ウ また、法15条の2では、許可要件として周辺住民の生活環境の保全について適切な配慮をすることが前提となっている。さらに、法15条6項は生活環境の保全の見地から意見書の提出を認めている。
エ よって、生活環境も個々人の利益として保護される。
(2) 侵害される利益の内容性質
ア C1
C1には地下水に浸透した有害物質が到達する恐れがある。C1は地下水を飲用していないが、栽培している高級ぶどうに影響がでる可能性がある。高級ぶどうの栽培はC1の経済的基盤として重要であるから、生活環境への影響がある。よって、原告適格がある。
イ C2
C2の居住地は対象地域である。有害物質の風による飛散の可能性があることと相まって、C2に健康被害がでる可能性がある。よって、C2に原告適格がある。