答案例
第1 設問1
1 本件訴訟は事実審口頭弁論終結時に履行すべきで状態にない給付請求権を内容とする給付の訴え(将来の給付の訴え、135条)を含んでいる。そこで、将来の給付の訴えとして認められるか。訴えの利益の有無が問題となる。なお、口頭弁論終結時までに既に発生している請求権の訴えの利益は認められる。
(1) 将来の給付の訴えは相手方の権利を不当に害する恐れがあるので、①将来給付を求める基礎となる資格(請求適格)があり、かつ②予め請求する必要がある場合(135条)に認められると解する。そして、請求適格は、請求権の基礎となる事実関係が既に生じていれば認められる。もっとも、かかる事実関係が未だ生じていない場合でも、a請求の基礎となるべき事実関係及び法律関係が存在し、その継続が予想され、b請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な将来の事情変動が容易に明確に予測でき、cかかる事情変動を請求異議の訴え(民事執行法35条1項)により立証するという負担を債務者に課しても不当とはいえない場合に限り請求適格が認められると解する。
(2) これを本件についてみると、
ア 本件賃貸借契約の契約期間は20年であり、Aのゴルフ場の経営は順調で、10年間賃料の未払いがないので、今後10年間も同様に本件賃貸借契約が継続すると考えられる(a)。
イ もっとも、今後YA間の賃貸借契約が解除され、Yが賃料収入を得られない事態が生じうる。そして、かかる事態がAの債務不履行やAの解除に起因するものであればYが関与できる事態ではない。しかし、本件賃貸借契約における土地の利用目的はゴルフ場であるからAは長期的な投資をしていると考えられ、Aによる短期的な解除は想定しづらい。また、前述のAの経営状況から賃料の不払いも想定しづらい。そのため、Yに有利な将来の事情変動はYのXに対する支払いや持分の譲渡などが考えられ、明確に予測できる(b)。
ウ そして、かかる主張の立証は契約書や領収書の提出により容易にできる(c)。以上より、①の要件を充足する。
エ また、LがYと交渉してもYは支払いに応じなかったので、現時点で請求する必要がある(②)。
(3) よって、将来の給付の訴えたる本件訴訟の提起は適法である。
第2 設問2
1 第2訴訟における貸金債権の存否の心理・判断は、前訴判決の判断内容の後訴における拘束力(既判力)に抵触し、許されないか。
(1) Yが前訴判決で相殺をもって対抗した額は300万円であるから、既判力はかかる300万円の不存在の判断に生じる(114条2項)。
(2) よって、第2訴訟のYの請求額450万円とかかる300万円との差額の150万円部分は既判力に抵触しない。
2 もっとも、かかる差額の150万円部分につき、前訴において当事者が主要な争点として争い、裁判所が審理した事項に対する判断内容の通用力(争点効)が生じないか。
(1) 争点効を認める明文規定はなく、また、これを認めると114条1項の趣旨が没却される。
(2) よって、争点効は認められない。
3 では、Yのかかる差額の150万円部分の請求は信義則(2条)に反しないか。
(1) 1個の金銭債権の請求に対し、その一部の請求の存在を認定する場合、その債権の性質上、金銭債権の全額が存在するかを審理判断した上でかかる認定をしている。そうであれば、かかる認定の判決が確定したのち、残部を請求することは前訴で認められなかった部分を不当に蒸し返すことであり、前訴で金銭債権全部について紛争が解決されたとの相手方の期待を裏切り、相手方に二重の応訴の負担を強いるものである。よって、かかる残部請求は信義則に反し許されない。そして、これは相殺の抗弁でも同様である。
(2) これを本件についてみると、前訴では本件貸金債権の500万円のうち450万円が弁済されたという認定がなされている。そうであれば第2訴訟は上記趣旨に反する。
(3) よって、Yの主張は信義則に反し許されない。
4 以上より、貸金債権の存否について審理・判断をすることはできない。