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商法

平成29年予備試験 商法論文

答案例

第1 設問1
1 XはAに対して、AのXに対する債権を現物出資財産(207条1項)とする募集株式の発行(199条1項、201条1項)をする。
(1) Xは公開会社であるから、取締役会設置会社である(327条1項1号)ところ、本件払込金額はAに特に有利な金額ではないから、本件募集株式の発行は取締役会の決議によることができる(201条1項)。
(2) そして、X及びAは総数引受契約をすることで申込及び割当て手続きを省略することができる(205条1項、203条、204条)。
(3) また、本件発行は現物出資であるから、原則検査役の選任を申立てなければならない(207条1項)。もっとも、選任不要となる例外にあたらないか。
ア 本件発行の株式数は1万株で、発行済株式総数は4万株であり、出資総額は5億円であるから、同条9項1号ないし3号にあたらない。また、同4号の証明を受けた事実はない。さらに、出資履行期日たる平成28年5月27日時点で、現物出資財産たる債権の弁済期が到来していないので、同5号にあたらない。もっとも、Xが期限の利益を放棄すれば同号が適用される。
イ よって、かかる場合には検査役の選任が不要となる。
(4) 以上より上記方法がとれる。
2 前述の同様にX及びAで総数引受契約をして募集株式を発行し、Xが出資の履行請求権を自働債権、AのXに対する債権を受働債権として、相殺する方法がある。もっとも、かかる方法は、引受人の相殺を禁止した208条3項との関係で許されるかが問題となる。
(1) 同条の趣旨は資本金に相当する金額が実際に会社に払い込まれることを確保し、会社財産を保護する点にある。そうであれば、募集株式を発行した会社からの相殺を認めてもかかる趣旨に反しない。
(2) よって、上記相殺は許される。
(3) 以上より上記方法がとれる。
第2 設問2(1)
1 CはZに対し、払込金額たる3億円全額をXに支払うことを求める(847条1項、213条の2第1項)。
ア そこで、本件募集株式の引受人であるZは払込みを仮装したといえるか。Zは実際に金銭を払い込んでいるので、預合い(965条)は成立しない。そこで、見せ金にあたるか。
(ア) 見せ金にあたるかは、基準の明確性の観点から①払込から返済までの期間の長短、②払込金の運用実績、③返済が会社に及ぼす影響などを総合的に考慮して決する。
(イ) これを本件についてみると、Zの払込の翌日にXは返済しており、運用実績はない。本件募集株式発行がなされないと、Xの財務状態に対する信用が悪化するので、払込金額の返済もXのそれを悪化させるものである。
(ウ) よって、本件払込は見せ金にあたり、仮装の払込にあたる。
イ 以上より、Cが6か月前からXの株式を有していれば上記請求ができる。
2 CはYに対し、前述のZが負う債務をZと連帯して負うことを請求する(847条1項、213条の3第1項)。
ア YとZは協議した上で、Xの連帯保証、Zの借入れ及び払込みをなしているから、Yは「仮装することに関与」したといえる。
イ 以上より、Cが6か月前からXの株式を有していれば上記請求ができる。
第3 設問2(2)
1 Bは基準日前にZから株式を取得し、名義書換え(124条1項)を完了している。もっとも、かかる株式は仮装払込によりZが取得したものであるから、Bは株主となる権利を有しないのではないか。
(1) 209条2項及び同3項の文言上、仮装払込した者も適切な出資を履行すれば株主の地位を有すると解される。そうであれば本件募集株式の発行は有効であると考えられる。
(2) そして、Bが仮装の事実につき悪意又は重過失がなければ株主の権利を行使できる(209条3項)。
2 以上より、Bが議決権を行使できる場合がある。

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