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刑法

平成29年予備試験 刑法論文

答案例

第1 甲の罪責
1  
(1) 甲がVにワインを宅配便で送った行為に殺人未遂罪(203条、199条)が成立するか。
(2)  
ア 実行行為とは構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為と解する。そこで、甲が致死量に満たない8ミリリットルの劇薬Xをワインに入れた行為が実行行為と言えるか。
イ 構成要件的結果発生の現実的危険性を有するかは、行為時に一般人が認識しえた事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎として、一般人を基準に結果発生の危険性を判断すべきである。
ウ 甲はVの特異な疾患を知っていた。よって、かかる事情は基礎にできる。そして、心臓は血液を循環させる臓器であるから、劇薬が体内に入れば血液に影響を及ぼし、死の危険があることを、一般人は考える。
エ よって、実行行為が認められる。
(3)  
ア そこで、甲に実行の着手(43条本文)が認められるか。
イ 実行の着手は構成要件的結果発生の現実的危険性が生じた時点で認められると解する。
ウ 甲は宅配便でワインを送っている。宅配便を送れば、宅配業者に事故や、地震が起きない限り、相手に品物が届くことはほぼ確実である。そして、甲が送ったワインは、Vが飲みたがっていたワインである。さらに、Vにはワイン一本を、2、3時間で一人で飲み切るという事情があった。甲はこれらの事情を知っていた。よって、Vにワインが届きさえすればVがワインを飲む可能性が高い。
エ したがって、甲が宅宅配便で送った時点で実行の着手が認められる。
(4) しかし、Vの死の結果が発生しなかった。
(5) 甲は「劇薬を混入したワインをVに飲ませてVを殺害しよう」と考えていたので、故意がある。
(6) 以上より、上記行為に殺人未遂罪が成立する。
2  
(1) 甲が乙にYが入った容器を渡した行為に殺人罪の間接正犯が成立するか。
(2)
ア 甲に殺人罪の実行行為が認められるか。甲は乙の行為を利用しているので間接正犯が成立するかが問題となる。
イ 他人を利用することで構成要件的結果発生の現実的危険性を発生させることができる。そこで、間接正犯は①利用者が正犯意思を有し、②利用者が被利用者を一方的に支配利用し、③構成要件的結果発生の現実的危険性を生じさせた場合に認められると解する。
ウ 甲はVにYを注射して殺害しようと考えていた(①充足)。また、甲は、乙が甲に対し就職のあっせんの件で恩義を感じていることを知った上で、乙が甲の指示に忠実に従うと考えていた。就職活動は一般に人生の大きな分岐点であるから、就職のあっせんをしてもらった医師の指示について、異議を唱えることはしづらい。また、乙に過失があったが、V殺害の認識認容はなかったので、規範障害がなかった。よって、甲は乙を一方的に支配利用していたと言える。(②充足)。さらに、甲は乙を利用して、致死量のYをVに注射させた(③充足)。
エ よって、間接正犯としての実行行為が認められる。
(3) Vは死亡したので結果が認められる。
(4)  
ア 乙はVに対しYを3ミリリットル注射し、致死量のYは注射していない。そこで、甲の行為とVの死に因果関係が認められるか。
イ 因果関係は、結果発生を理由として重い違法性を肯定できるかの問題であるところ、一般予防効果達成の観点から、行為の危険性が結果へと現実化した場合に重い違法評価加えることができると考える。そこで、①条件関係を前提に、行為の危険性については、規範による行為統制の観点から、②行為時に一般人が認識・予見しえた事情及び行為者が特に認識・予見していた事情を基礎として、行為の危険性が結果へと現実化した場合に因果関係が認められると解する。
ウ 甲が上記行為をしなければVは死亡しなかったので条件関係は認められる(①充足)。前述の通り甲はVの疾患を知っていたので、VがYの影響により心臓発作を起こし、急性心不全により死亡した事情は基礎にできる。よって、甲の上記行為の危険性が結果へと現実化したといえる(②充足)。
エ よって、因果関係が認められる。
(5) 甲には故意がある。
(6) 以上より上記行為に殺人罪が成立する。
3 以上より、甲は殺人未遂罪と殺人罪の罪責を負い、包括一罪となる。
第2 乙の罪責
1 業務上過失致傷罪(211条前段)
(1) 乙がVに注射した行為は医療行為である。よって、注射行為は社会生活上の地位に基づいて反復継続して行い、人の生命身体に危害を加える恐れのある行為であるから、「業務」といえる。
(2) また、乙に刑事上の過失があったので、「必要な注意を怠」ったといえる。
(3) もっとも、乙が注射したYは致死量でない。また、乙はVの疾患を認識していなかった。よって、乙の行為の危険性が、Vの死亡結果へと現実化したとはいえない。したがって、Vの死亡結果につき因果関係は認められない。
(4) よって、乙の上記行為に上記犯罪が成立する。
2 虚偽診断書作成罪(160条)、同行使罪(161条1項)
(1) 「医師」である乙は、「公務所」であるC市役所に「提出」する「診断書」に「虚偽の記載」をした。
(2) また、その診断書を虚偽であることを知らないDに渡し、DがC市役所に提出した。よって、乙は「行使」したと言える。
(3) よって、乙の行為に上記犯罪が成立する。
3 また、証拠偽造罪(104条前段)及び犯人隠避罪(103条後段)が成立する。
4 以上より、乙は①業務上過失致傷罪、②虚偽診断書作成罪、③同行使罪、④証拠偽造罪、⑤犯人隠避罪の罪責を負う。なお、②と③は牽連犯(54条1項後段)となり、②と④と⑤は観念的競合(54条1項前段)となり、これらと①は併合罪(45条前段)となる。

解説

罪数処理はよくわかりません。

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