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労働法

平成30年司法試験 労働法論文第1問

答案例

第1 設問1
1 本件仮眠時間は労働時間(労基法32条)にあたるか。
(1) 労働時間とは客観的にみて使用者の指揮命令下にある時間をいうと解する。
(2) これを本件についてみると、本件シフトは二人勤務体制であるから、片方が仮眠時間中は、もう片方が業務を行っている。しかし、本件仮眠時間中は職場である病院施設からの外出は禁止されているので、労働者の移動の自由は制限されている。また、緊急対応の必要がある突発的事態が生じた場合、仮眠時間中でもその対応をしなければならない。そのため、本件仮眠時間中はかかる対応に追われる可能性がある状況の下、一定の緊張感がある。そして、本件勤務場所は医療施設であるから、対応の遅れは人の生命に関わるため、かかる緊張感は高度なものが要求される。そうであれば、本件仮眠時間中、Xは労働から解放されているとはいえない。
(3) よって、本件仮眠時間は客観的にみて指揮命令下にあるといえ、労働時間にあたる。
2 そこで、本件仮眠時間につき賃金を請求できるか。
(1) 本件仮眠時間が労基法上の労働時間にあたるとしても、当然に賃金請求権が定まるものではなく、本件仮眠時間に対する対価につき労働契約でいかなる合意がなされていたかによって定まるものであると解する。もっとも、労働契約における労働と賃金の対価関係は労働契約の本質的部分であるから、労基法上の労働時間に該当すれば、かかる時間には賃金が発生するとするのが合理的な解釈である。
(2) これを本件についてみると、Y社では仮眠時間は就業規則の所定の労働時間に入れていなかった。しかし、前述の通り本件仮眠時間は労基法上の労働時間である。また、Y社では仮眠時間に対応するものとして、「泊まり勤務手当」を支給していた半面、仮眠時間中に突発的業務に従事した場合には申告の下、時間外勤務手当を支給していた。そして、突発的業務がある場合とそうでない場合では労働密度が大きな差がある。そうであれば本件労働契約では突発的業務に従事した場合とそうでない場合で各々前述の賃金を支払うという契約がなされていたといえる。
(3) よって、Xは賃金請求はできない。
3 そうだとしても、割増賃金の請求ができないか。
(1) 本件仮眠時間は労基法上の労働時間であると解される以上、割増賃金を請求できると解する(労基法13条、37条)。なお、「泊まり勤務手当」は時間外労働の対価であることが明確であるから、割増賃金の算定の基礎に含まれない。
(2) よって、割増賃金の請求ができる。
第2 設問2
1 労働者は使用者に対して企業秩序遵守義務を負うので、使用者は労働者に対して企業の円滑な運営を図るために一種の制裁罰としての懲戒権を有する。そこで、懲戒が有効といえるには、①懲戒処分根拠規定が存在し、②労働者の行為が懲戒事由に該当し、③社会通念上相当であることが必要である。
2 これを本件についてみると、
(1) 本件処分はY社就業規則60条に基づいてなされているところ、かかる就業規則は周知されていたと考えられ、かつ合理的なものである。よって、かかる就業規則に基づいて懲戒処分は可能である(①)。
(2) まず、Xが労基署にメールを送った行為は、仮眠時間の賃金上の取り扱いという、Xが「法律・・・に違反する事実」と思慮した事実についての申告である。そうであれば、かかる行為に対する不利益取り扱いは許されない(労基法104条2項)。
次に、Xの平成29年5月10日の対応につき、本件職場は医療施設であり、緊急時には人の生命身体に関わる問題が発生する状況であった。また、Y社もかかる職場の特質性を考慮して警備の請負金額を設定していると考えられる。そうであればXには高度な注意義務が課されていた。それにもかかわらず、Xは禁止されていた飲酒をし寝入っていた。さらに、Xは過去にも複数回同様の行為をしていた。これらの事情を踏まえればXには警備員としての自覚・責任感が欠如していたといえ、Y社就業規則65条5号に該当する(②)。
(3) 本件処分はY社就業規則の出勤停止期間の上限の出勤停止を命令している。そして、本件処分はXが労基署にメールを送ったことも考慮しているとすれば重い処分であるとも思える。しかし、Xが寝過ごしたのは、病気などのやむをえない事由ではなく、飲酒という自らの自由な意思に基づいて行った事由に基づくものである。また、Xは反省の態度を示しているが、Xが過去に飲酒を繰り返していたことから、Xの行為は悪質である。よって、本件処分は相当な処分といえる(③)。
3 以上より、本件処分は有効である。

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