答案例
第1 設問1
1 使用者たるY社は労働組合の「正当な行為」を理由に、「不利益な取扱い」たる本件処分をすることができない(不利益取扱い、労組法7条1号)。そこで、Cらの行為は「正当な行為」といえるか。
(1) 「正当な行為」は組合活動の主体・目的・態様から判断する。
ア Z組合の執行委員会ではCと委員長Dとの意見が分かれている。また、Z組合の規約3条では委員長には組合を統括する権限がある。そうであればDとの見解が相違し、Dに許可なく行ったCらの行為はZ組合の運動方針に反するとも思える。しかし、Cらの活動は労働者の生活の基礎をなす基本給の削減という労働者の重要な権利を保護する目的を有する活動である。よって、主体及び目的としての正当性がある。
イ ビラにはP社及びその代表たるQを対象としているところ、P社はY社の株式の過半数を有しており、本件では経営陣を大幅に入れ替え、Aを社長に就任させた事情を考慮すると、P社はY社の経営を実質的に支配し、Y社の経営に関する行為はP社の行為と同視できる。よって、P社及びQを対象とするビラはY社に対する組合活動の範囲内といえる。
また、Cらの行為は就業時間前にY社社屋前で行われているので、労務提供義務違反にあたらず、Y社の施設管理権を害するものではない。また、ビラの表現は過激な部分があるが、個人を誹謗中傷するようなものではなく、Y社の経営を批判する色彩が強いものである。
よって、本件ビラ配布行為の態様に正当性がある。そして、C個人のウェブサイトの掲載は正当性があるビラ配布行為をそのまま公開しただけである。よって、かかる行為も正当性がある。
(2) 以上より、Cらの行為は「正当な行為」といえる。
(3) また、Y社はCらの行為を理由に本件処分を行おうとしているから、反組合的認識があり、「故をもって」の要件を満たす。
(4) よって、本件処分は不利益取扱いにあたる。
2 また、本件処分は、反組合的意思の下、Cらに不利益をもたらすことで委縮させ、Z組合を弱体化させるものであるから、支配介入(労組法7条3号)にあたる。
第2 設問2
1 DはCらに本件統制処分ができるか。労働組合の組合員への統制処分の可否・限界が問題となる。
(1) 労働組合の統制権は憲法28条の団結権保障の効果として認められる。もっとも、統制権の行使は組合員の権利を奪うものであるから、無制限に認められるものではない。そこで、統制権の行使は必要かつ相当な範囲で認められると解する。
(2) これを本件についてみると、CらはX組合の方針と反する行為を行っているので、「組合の統制秩序を乱した」(組合規約10条2号)といえ、統制権の行使が必要であるといえる。しかし、Cらは「Z組合有志」と名乗っているだけで、Z組合の活動として行った事実はない。また、統制処分は原則組合大会の決議が必要である(組合規約12条)ことから、統制処分は慎重に課すべきであると解されるところ、本件統制処分においてはY社の要求にそのまま応じるだけで、Cらに対してヒアリングや意見陳述をさせる機会を設けていない。よって、本件処分はCらの行為に比して過剰な処分といえ、相当性がない。
(3) よって、Cらの行為は統制処分該当事由にあたらない。
2 以上より、Dは本件統制処分を行うべきではない。
第3 設問3
1 本件労働協約は基本給の削減という組合員に不利益な内容であるところ、かかる協約に規範的効力(労組法16条)が認められるか。不利益変更の場合の規範的効力の有無が問題となる。
2 労働協約は労使自治の理念に基づく相互の譲歩により締結されるものであるから、労働協約の内容が、労働者の不利益な事項を含むことのみをもって、労働協約締結が労働者の不利益であると判断することは妥当でない。よって、不利益変更の労働協約にも原則規範的効力が認められると解する。もっとも、特定の組合員をことさらに不利に扱うことを目的として締結されるなど、労働組合の目的を逸脱した労働協約には規範的効力は認められないと解する。
3 これを本件についてみると、本件給与の削減対象は全従業員であるから、特定の組合員を不利に扱う場合ではない。また、本件削減はY社の業績を回復を目的としている。そして、Y社はここ数年低迷が続いており、抜本的な改革が迫られていた。また、基本給削減に対しては、業績が向上した場合に一時金という形式で補う代替案が示されている。しかし、本件基本給の削減は労働者の生活に大きな影響もたらすものであるから、慎重に検討すべきである。それにもかかわらず、Dは執行委員会においてのみ組合員の意見を聴取し、組合大会などの組合員全員の意見を聴取する手続きを経ていない。これらの事情を考慮すれば労働組合の目的を逸脱したものといえる。
4 以上より、本件労働協約に規範的効力が認められない。