答案例
第1 設問1
1 Y及びZに対する請求の訴訟物はいずれも本件売買契約に基づく売買代金支払請求権であるから、両請求は「同一の・・・法律上の原因」(38条)に基づくものである。そのため、XはYZを共同訴訟人として訴えることができる(通常共同訴訟、38条)。また、両訴訟は「同種の訴訟手続」によることができる(136条)から、両請求を一の訴えですることができる(単純併合)。そして、当事者の一方が提出した証拠は他方にとっても有利な事実認定用いることができるという証拠共通の原則は、自由心証主義(247条)の下、通常共同訴訟においても妥当する。
2 もっとも、通常共同訴訟では弁論が分離され(152条1項)、両請求とも棄却される可能性がある。そこで、Xは同時審判の申出(41条1項)をして、弁論の分離を阻止できないか。
(1) 他人物売買は有効である(民法561条)から、本件絵画のXY間とXZ間の売買契約は法律上併存し得る。
(2) よって、本件では41条の要件に該当せず、同時審判の申出は認められない。
3 そうだとしても、Yに対する請求の予備的にZに対する請求を追加できないか。訴えの主観的予備的併合の可否が問題となる。
(1) かかる併合では予備的被告に対する訴訟は主位被告に対する請求認容判決が確定すれば遡及的に消滅するので、予備的被告の地位を不安定にする。また、かかる併合は通常共同訴訟である以上、共同訴訟人独立の原則(39条)が適用されるから、上訴でも併合され審判統一がなされるとは限らない。よって、かかる併合を認めるべきでない。
(2) よって、Xは上記方法をとれない。
4 以上より、Xは通常共同訴訟を提起する手段をとる。
第2 小問2
1 XY間の訴訟(以下、「前訴」という。)は確定している。しかし、後訴の当事者はXZであり、前訴の当事者(115条1項1号)と異なる。また、Zは115条1項2号ないし4号にあたらない。よって、確定判決の判断内容の後訴における拘束力(既判力)は後訴に及ばない。
2 また、Xが本件訴訟告知をしたが、Zは補助参加しなかった。そこで、53条4項によりZに46条の効力が及びうる。もっとも、そのためにはZに補助参加の利益が必要であると解する。そこで、Zに補助参加の利益があるか。「訴訟の結果」及び「利害関係」の意義が問題となる。
(1) 判決理由中の判断には当事者間にさえ既判力が生じず、また補助参加人の受ける影響は事実上のものにとどまる。そこで、「訴訟結果」とは文言通り判決主文の判断を意味すると解する。また、補助参加制度は将来的に訴訟当事者になりうる者に既に係属中の訴訟の参加を許可して紛争の合理的な解決を図る制度である。そこで、「利害関係」とは法律上の利害関係に限ると解する。
(2) これを本件についてみると、前訴の判決主文の判断は本件売買契約の代金支払請求権の存否であるところ、これによって、後訴のZのXに対する代金債務の存在という法律上の利害関係が論理的に決せられるわけではない。
(3) よって、Zは「訴訟結果」につき「利害関係」を有しないから、補助参加の利益はない。
3 また、仮にZが補助参加できたとして、53条4項により46条の「効力」がZに及ぶか。「効力」の意義が問題となる。
(1) 同条の趣旨は被参加人と共同して訴訟行為をした補助参加人にも被参加人敗訴の責任を共同して負わせて公平を図る点にある。そうであれば「効力」は既判力とは別の効力たる参加的効力と解する。そして、訴訟告知の場合、参加的効力は①告知者敗訴の場合に、②告知者と被告知者間に、③判決主文のみならず判決理由中の判断にも生じると解する。もっとも、判決理由中の判断については基準の明確性の見地から、判決主文を導き出す主要事実の認定又は法律判断に限定すべきである。
(2) これを本件についてみると、
ア 告知者たるXは敗訴した(①充足)。
イ しかし、前訴の訴訟物たる権利の不存在を導き出す際に、XZ間の売買契約の存在は前訴訴訟物の判断に直接必要な具体的事実(主要事実)ではなく、主要事実の存否を推認するのに役立つ事実(間接事実)に過ぎない。(③不充足)。
(3) よって、Zに参加的効力は生じない。
4 以上より、Zに53条4項の適用はなく、後訴で前訴の判決の効力を用いることはできない。
第3 小問3
1 共同訴訟の弁論の分離は審理の複雑化・長期化を回避するためになされると考えられる。そこで、かかる趣旨が本件に妥当するか。
(1) これを本件についてみると、Zの代表取締役はYであるから、Zの訴訟追行はYが行う(会社法349条4項)。そのため、両訴訟の訴訟追行者はいずれもXYであるから、上記趣旨が妥当しない。
(2) よって、上記趣旨が妥当しない。
2 また、共同訴訟の弁論の併合の趣旨は訴訟資料を共通にすることで、当事者の負担の軽減、審理の効率化、事実上併存しない訴訟の合理的な判断を実現する点にある。そこで、かかる趣旨が本件に妥当するか。
(1) これを本件についてみると、両訴訟の訴訟追行者はXYであるから、当事者の負担軽減、審理の効率化が実現される。また、両訴訟は同一の売買契約におけるXとの契約締結相手が争点となっているので、両訴訟は事実上併存しない。
(2) よって、上記趣旨が妥当する。
3 以上が本件主張の根拠となり得る。