答案例
第1 設問前段
1
(1) 法律上の争訟とは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、法を適用して終局的に解決ができるものを指す。
(2) よって、Xの提起する訴えは法律上の争訟にあたるとも思える。
2
(1) もっとも、自律的な法規範を持つ団体においては当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せるべきである。
(2) 除名処分は議員の資格を喪失させるから、重大事項である。よって、単なる内部規律の問題に止まらない。
(3) よって、本件訴えは「法律上の争訟」といえ、司法審査の対象となる。
第2 設問後段
1 Xの主張(①)
(1) Xは処分1が自己の意思に反して陳謝をしない自由を侵害し、違憲であると主張する。
(2) まず、「思想及び良心」(19条)とは、人の内心におけるものの見方ないし考え方を指すと解する。よって、上記自由は19条で保障される。
(3) 次に、思想・良心の自由は、内心に留まる限り絶対的に保障される。そして、処分1はXに陳謝を強制しているので、直接的に上記自由を制約している。
(4) よって、処分1は19条に反し、違憲である。
2 Xの主張(②)
(1) Xは処分2がXの議員活動の自由を侵害し違憲であると主張する。
(2) まず、議員活動には議員の表現行為が不可欠であるから、上記自由は21条1項で保障される。
(3) 次に、処分2により議員活動ができなくなるので、上記自由に対する制約がある。
(4) そして、上記自由は議員活動を通じて地域住民とふれあい、地域の問題を解決することを通して自己の人格を発展させる自己実現の価値及び、議員として政策を実現して、民主的意思決定に関与する自己統治の価値を有する。よって、上記自由は重要な権利である。また、処分2により議員活動が一切できなくなるので、規制態様が強度である。そこで、厳格に判断する。
(5)
ア 処分2の目的は議会の適正な運営の確保にある。そして、本件発言は当時一定の調査による相応の根拠に基づいて行われたものであるから、議会は適正に運営されており、目的と適合しない。
イ また、本件事情の下では除名という最も重い処分を科すことは目的との関係で必要性が低い。
(6) 以上より、処分2は21条1項に反し違憲である。
3 反論(①)
(1) まず、「思想及び良心」とは、個人の人格形成に必要な内面的な精神作用であると解する。そして、謝罪の意思を表明することは個人の人格形成に必要といえず、上記自由は19条で保障されない。
(2) 次に、仮に、上記自由が同条で保障されるとしても、処分1は単に事態の真相を告白し、陳謝の意を表明するに止まるので、上記自由に対する制約があるとはいえない。
4 反論(②)
(1) まず、議員活動は議会の運営上必要な自律権の制約を受ける。そこで、上記自由はかかる制約に服する権利である。そこで、緩やかに判断する。
(2) 次に、本件発言の発言者に議会が責任を問うことで議会の適正な運営が確保されるので、目的と適合する。また、処分2は処分1を拒んだことを前提になされたものであり、過度な処分とは言えない。
(3)
5 私見(①)
(1) まず、個人の人格形成に必要でない内面の精神作用を「思想・良心」に含めると、思想・良心の自由の価値を希薄化する。そこで、「思想・良心」とは反論の通りのものであると解する。よって、上記自由は憲法上保障されない。
(2) 次に、仮に上記自由が保障されるとしても、処分1はXに「思想・良心」を押し付けるものではなく、議員活動における誤りを、言葉で訂正することを強制するものに過ぎない。よって、上記自由に対する制約はない。
(3) 以上より処分1は19条に反せず、合憲である。
6 私見(②)
(1) まず、原告の主張するとおり上記自由は21条1項で保障され、処分2により制約を受けている。
(2) 次に、上記自由は原告の主張するとおり重要であるが、被告の主張するとおり一定の制約に服する。そこで、上記自由の重要性は原告の主張する程度より劣る。そして、原告の主張するとおり規制態様は強度である。そこで、中間審査基準で審査する。具体的には目的が重要で、手段が目的との関係で効果的で過度なければ正当化される。
(3)
ア まず、目的は原告の主張する通りであるところ、かかる目的は住民の議会に対する信頼を確保し、地方自治が住民の意思に基づき行われる住民自治に資するので、重要である。
イ 次に、処分2により住民や議員に対するけじめが外部に表明され、議会に対する信頼の維持が確保される。よって、目的との関係で適合する。
ウ しかし、議会の信頼を確保するためにはXを除名するのではなく、一定期間停止することで、外部へけじめを表明することができる。また、Xの発言は相応の根拠に基づいてなされたものであるから、悪質な行為とは言えない。そうであれば除名処分は目的との関係で過度である。
(4) 以上より、処分2は21条1項に反し、違憲である。