刑事訴訟法

伝聞法則(伝聞・非伝聞の区別)

伝聞の意義

伝聞証拠

伝聞証拠とは、伝聞書面(刑訴法320条1項前段)と伝聞供述(刑訴法320条1項後段)を指す。

そして、伝聞書面とは、公判期日における供述に代えて提出される供述書面である。例えば、被疑者の供述を警察官が録取した書面や、被疑者の日記がある。

この場合、本来であれば供述書面上で供述をした者が公判期日で直接供述すべきである。しかし、伝聞書面が裁判において証拠として提出されると、取調べを請求した者がその伝聞書面を朗読する(刑訴法305条1項)。そのため、伝聞書面を証拠として提出すると、供述書面上の供述者が公判期日において直接供述するのではなく、伝聞書面の証拠調べを請求した者が公判期日において供述する形になる。このように間接的に供述を確認することを又聞きや伝聞と呼ぶ。

これに対し、伝聞供述とは、公判期日外における他人の供述内容を、公判期日で供述することである。例えば、公判期日における次のBの供述である。

「Aが『甲がコンビニで商品を盗むのを見た。』と言っていた。」

この場合、本来であれば目撃者であるAが公判期日で供述するべきである。しかし、このBの供述を証拠調べすると、公判期日で直接Aの供述を確認するのではなく、Aの供述を聞いたBを通して間接的にAの供述を確認することになる。そして、これも又聞きや伝聞にあたる。

供述証拠

伝聞証拠は供述証拠であるが、供述証拠とは、人の言葉やジェスチャーで表現される証拠である。これに対し、供述証拠ではない証拠(非供述証拠)の例には、コンビニでの窃盗の瞬間を録画した防犯カメラの映像がある。

供述証拠は知覚・記憶・叙述という過程を経て形成される。そのため、知覚・記憶・叙述のいずれの過程においても誤りが混入する可能性がある。すなわち、知覚においては見間違い、記憶においては勘違い、叙述においては言い間違いなどが起こり得る。そのため、供述証拠は非供述証拠に比べて慎重に扱う必要性が高い。

もっとも、供述証拠は犯罪立証のために必要不可欠なものである。

そこで、供述証拠は、供述者に対する反対尋問を保障し、証拠の価値を見極めた上で採用することができる。すなわち、反対尋問を行い、それに対する反応や受け答えを裁判官が直接視認・観察することで供述内容の信ぴょう性を判断するのである。

伝聞法則

伝聞法則とは、伝聞証拠の証拠能力を原則否定する考えである。

前述のとおり、供述証拠は反対尋問を経てその証拠価値を見極める必要がある。しかし、伝聞証拠は反対尋問ができないので、原則これを証拠をとして採用すべきではない。

なお、伝聞法則は刑訴法320条1項に規定されている。

刑事訴訟法

第三百二十条 第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
② 略

もっとも、一切の伝聞証拠の証拠能力を否定することは真実発見の見地から妥当でない。そこで、刑事訴訟法は証拠として必要性が高く、かつ反対尋問に代わる信用性の担保がある場合を類型化して伝聞例外を定めている。伝聞例外とは、一定の要件の下、証拠能力が認められる伝聞証拠であり、321条以下で規定される。

伝聞・非伝聞の区別

伝聞証拠の定義

供述証拠のすべてが伝聞証拠に該当する訳ではない。通説的な見解では、伝聞証拠とは、公判期日外の供述を内容する証拠で、その供述内容の真実性を立証するものであると解されている(形式説)。

「公判期日外の供述を内容する証拠」とは前述の又聞きや伝聞を指す。

「その供述内容の真実性を立証するもの」とは、要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となるものを指す。

そして、この「要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる」の理解が伝聞法則を理解する上で最も重要であり、かつ最も難解である。

真実性が問題となる例1

そこで、「要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる」とはどのような場合か説明する。

例えば、Bが公判期日において、次の供述をしたとする。

「Aが『甲がコンビニで商品を盗むのを見た。』と言っていた。」

まず、このAの発言は、「公判期日外における他の者の供述」(刑訴法320条1項後段)である。よって、Bの公判期日における、この供述は「公判期日外における他の者の供述」を内容とする供述である。

次に、要証事実を【甲がコンビニで商品を盗んだ事実】とした場合、要証事実との関係でAの供述内容の真実性が問題となる。すなわち、Aが、甲がコンビニで商品を盗むのを本当にみたかが問題となる。そのため、「Aが盗む瞬間を見たのか」、「盗む瞬間を見たのは、見間違いではないか」等を反対尋問を通して確認する必要がある。

よって、この場合のBの供述は伝聞供述となる。そして、Bのこの供述を証拠として提出するには前提として伝聞例外(刑訴法321条ないし328条)の要件を満たす必要がある。

真実性が問題とならない例

では、Bが公判期日において、次の供述をした場合はどうか。

「甲がコンビニで店員に『金を渡さないと殴る。』と言っていた。」

まず、この甲の発言は、「公判期日外における他の者の供述」である。よって、Bの公判期日における、この供述は「公判期日外における他の者の供述」を内容とする供述である。

次に、要証事実を【甲のコンビニでの恐喝行為】とした場合、要証事実との関係で甲の供述内容の真実性は問題とならない。なぜなら、甲が、コンビニ店員が金を渡さなければ本当に殴るつもりだったか否かは問題ではなく、甲がこの発言をしたか否かが問題となるからである。すなわち、甲が本当は殴る気がなかったとしても、甲のこの発言の存在が認められれば恐喝行為となる。

よって、この場合のBの供述は伝聞供述とならない。

真実性が問題となる例2

では、Cが公判期日において、次の供述をした場合はどうか。

「甲がコンビニで店員に『金を渡さないと殴る。』と言っていた。」とBが言っていた。

要証事実を【甲のコンビニでの恐喝行為】とした場合、甲の発言につき前述と同様の理由で内容の真実性は問題とならない。

しかし、Bの供述内容は要証事実との関係で真実性が問題となる。すなわち、Bが、本当に甲の恐喝行為を見聞きしたのかが問題となる。そのため、「Bが恐喝行為の瞬間を見たのか」、「恐喝行為の瞬間を見たのは、見間違いではないか」等を反対尋問を通して確認する必要がある。

よって、この場合のCの供述は伝聞供述となる。そして、Cのこの供述を証拠として提出するには前提として伝聞例外(刑訴法321条ないし328条)の要件を満たす必要がある。

また、「甲がコンビニで店員に『金を渡さないと殴る。』と言っていた。」という内容のBの供述書(又はBの署名若しくは押印のある供述録取書)が存在する場合、かかる書面はBの公判期日における供述に代わる書面である。

そして、要証事実を【甲のコンビニでの恐喝行為】とした場合、前述と同様にBの供述内容の真実性が問題となる。

よって、この場合のBの供述書(又はBの署名若しくは押印のある供述録取書)は伝聞書面となる。そして、この書面を証拠として提出するには前提として伝聞例外(刑訴法321条ないし328条)の要件を満たす必要がある。

実況見分調書における伝聞法則

実況見分調書

実況見分調書とは、実況見分の結果を記録した書面である。そして、実況見分とは、捜査機関が任意処分として行った検証である。実況見分調書を証拠として提出する場合、実況見分調書は、捜査機関の公判期日における供述に代えて提出される供述書面、すなわち、伝聞書面である。

また、実況見分においては捜査機関とは別に立会人が参加することがある。そのため、この立会人との関係で伝聞法則が問題となる。

すなわち、仮に実況見分調書の捜査機関の供述について、刑訴法321条3項によって、伝聞例外として証拠能力が認められるとしても、立会人との関係で伝聞書面にあたるか、伝聞書面にあたるとして伝聞例外に該当するかなどが問題となる。

現場供述

例えば、司法警察職員Kが行った交通事故の実況見分において、交通事故を引き起こした加害者甲が立ち会ったとする。そして、甲が次のように供述したとする。

「事故当時、私(甲)の前の信号は赤だった。」

まず、この実況見分調書は司法警察職員K作成の供述証拠であるから、この実況見分調書はKとの関係で伝聞例外(刑訴法321条ないし328条)に該当しない限り証拠能力を有しない。

次に、この実況見分調書には、甲の供述が含まれている。そして、要証事実を【事故当時甲が赤信号を認識していた事実】とした場合、要証事実との関係で甲の供述内容の真実性が問題となる。よって、この実況見分調書は司法警察職員Kの伝聞書面だけでなく、甲の伝聞書面の性質も有する。そのため、この実況見分調書中の甲の供述部分は、甲との関係で伝聞例外(刑訴法321条ないし328条)に該当しない限り証拠能力を有しない。

また、仮に検察官がこの実況見分調書の立証趣旨を【交通事故再現状況】や【甲の供述の存在】と設定した場合でも、要証事実が【事故当時甲が赤信号を認識していた事実】と解されれば、この場合も甲の供述内容の真実性が問題となるので、実況見分調書の甲の供述部分は伝聞書面となる。

現場指示

では、甲が実況見分において次のように供述した場合はどうか。

「私(甲)が被害者(乙)を初めて認識した地点はa地点で、その時被害者(乙)はb地点にいました。」

そして、司法警察職員Kは、実況見分において、甲のこの供述を基にa地点からb地点までが10メートルあることを確認した。

この場合に要証事実を【甲が乙を初めて認識した場所として供述する地点から、その時乙が立っていた場所として甲が供述する地点の距離が10メートルであること】とした場合、要証事実との関係で甲の供述内容の真実性は問題とならない。なぜなら、甲が供述するa地点及びb地点の距離が要証事実であり、「甲が実際にa地点で乙を認識したか」、及び「乙が実際にb地点にいたか」は問題とならないからである。

では、甲のかかる供述がどのような意味を有するかというと、これは自然的関連性の立証である。すなわち、司法警察職員Kが好き勝手な場所で実況見分を行ったわけでなく、甲の指示という根拠ある場所で実況見分を行ったことを証明するために甲の供述を記載する。

よって、この場合は甲の供述部分については伝聞書面とならないので、甲との関係で伝聞例外(刑訴法321条ないし328条)を検討する必要はない。

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