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労働法

令和2年司法試験 労働法論文第1問

答案例

第1 設問1
1 Xは労基法37条に基づいて月間180時間以内の労働時間中の時間外労働(以下、「本件時間外労働」という。)にかかる割増賃金(以下、「本件割増賃金」という。)の支払いを請求している。
2 これに対し、Yは、本件割増賃金は本件約定によって基本給に組み入れられているので、本件割増賃金を支払う義務はないと反論している。
3 そこで、Xに本件割増賃金の支払い請求権が発生しているか。割増賃金の基本給への組み入れの可否が問題となる。
(1) 労基法37条の趣旨は時間外・休日労働という労働者の特別の損害を補償し、使用者に経済的負担を負わせることで過度な時間外・休日労働を抑制する点にある。そうであれば同条の基準を下回らなければ、同条と異なる算定基準に基づいて割増賃金を支払うこと、すなわち割増賃金を基本給や手当に組み入れることは禁止されていないと解する。そこで、かかる割増賃金の支払いは、①通常の労働時間に相当する部分と割増賃金に相当する部分が明確に区別され、かつ②割増賃金に相当する部分が法定の計算以上の額である場合には許容されると解する。
(2) これを本件についてみると、Xは本件雇用契約の基本給が比較的高額であると認識しており、割増賃金が基本給に組み入れられていると推認できる。しかし、本件約定は標準の月間総労働時間を160時間とし、月間総労働時間が140時間ないし180時間の間では基本給のみ支払われるという特徴を有していた。そして、180時間内で時間外労働をしても基本給が増額することはない。また、基本給の内訳として割増賃金が区別されていた事情はない。さらに、月間の勤務日数が異なれば、勤務日数に比例して時間外労働時間も変動するから、通常の労働時間に相当する部分と割増賃金に相当する部分の比率は月ごとで異なる。そうであれば、本件約定は両者が明確に区別されたとはいえない(①不充足)。
(3) よって、Xに本件割増賃金の支払い請求権が発生している。
4 以上よりXの請求は認められる。
第2 設問2
1 Xは本件割増賃金を放棄したといえるか。賃金全額払いの原則(労基法24条1項本文)との関係で問題となる。
(1) 同項の趣旨は使用者が一方的に賃金を控除することを禁止して、労働者に賃金全額を受領させて労働者の生活安定を図る点にある。そうであれば同項が労働者の賃金債権の放棄を禁止したとはいえない。もっとも、賃金債権放棄は労働者の自由な意思によって行われる必要がある。そこで、賃金債権放棄は、労働者の自由な意思で明確に行われ、かつ自由な意思に基づくものと認める合理的理由が客観的に存在する場合に認められると解する。
(2) これを本件についてみると、本件雇用契約締結に際してXが割増賃金の請求を放棄した事情はない。また、確かにXは本件約定を認識し、理解した上で本件雇用契約を締結しているので、本件割増賃金の請求を黙示的に放棄したとも思える。しかし、本件雇用契約締結時にどの程度の割増賃金が発生するかは未だ労務を開始していないXが計り知れない事柄である。また、Xは基本給が比較的高額であると認識していたが、本件時間外労働の実情を考慮すれば高額とまではいえない。そうであればXが上記認識・理解の下、本件雇用契約を締結したとしても、Xの自由な意思に基づいて本件割増賃金を放棄したと認める合理的理由は見いだせない。
(3) よって、Yの反論は認められない。
2 以上より、Xの請求は認められる。

解説

問題文中の「125%増し」は「25%増し」の間違いと思われる。

 

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