答案例
第1 小問1
1 乙の主張は甲乙間の訴訟にいかなる影響をもたらすか。
(1) 訴訟資料の収集・提出を当事者側の責任かつ権能とする建前たる弁論主義の下では当事者が主張していない事実を判決の基礎とすることはできない(第1テーゼ)。そして、弁論主義の根拠は当事者の意思の尊重、機能は不意打ち防止にある。そうであれば弁論主義は訴訟の勝敗を決する法律効果の判断に直接必要な具体的事実(主要事実)に及ぼせば十分である。また、主要事実の存否を推認させる事実(間接事実)及び証拠の証明力に影響を与える事実(補助事実)は証拠と同様の機能を有するから、自由心証主義への配慮のためこれらに弁論主義を及ぼすべでない。そこで、弁論主義は主要事実のみに及ぶと解する。そして、当事者にはある事実を主張しない場合にそれを法律要件とする法律効果が認められない不利益が課される(主張責任)。もっとも、裁判所は当事者の一方が主張した事実につき他方にとっても有利にも不利にも事実認定することができる(主張共通の原則)。
(2) これを本件についてみると、甲乙間の訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求権であるから、甲乙間の土地の賃貸借契約の成立の主張は乙の土地の占有権原を主張するものである。よって、かかる主張は主要事実の主張である。
(3) よって、乙の主張は甲乙間の訴訟で甲乙にいずれとっても有利にも不利にも事実認定される。
2 そこで、乙の主張は甲丙間の訴訟にいかなる影響をもたらすか。なお、両請求は別個の請求が併合されたものであり、また判決効が拡張される関係にないから、通常共同訴訟である。
(1) 本来個別に審判される訴訟が便宜上共同審理された訴訟形態である通常共同訴訟(39条)では、共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響及ぼさず(共同訴訟人独立の原則)、事実上審判統一が期待されるものに過ぎない。そのため、弁論主義は個別に適用されるべきであり、主張共通の原則は適用されない。
(2) これを本件についてみると、本件2つの訴訟は通常訴訟である。
(3) よって、丙は乙が主張した事実を援用しなければ、裁判所は判決の基礎にできない。
3 以上より、乙の主張は甲丙間の訴訟に上記影響を及ぼす。
第2 小問2
1 ある要証事実につき立証責任を負う当事者が立証に失敗した場合に、その要証事実を法律要件とする法律効果が認められないというその当事者の不利益を立証責任という。また、当事者の一方が提出した証拠は他方のための証拠にもなる(証拠共通の原則)。そこで、甲乙間で証拠調べによって得られた証拠資料が甲丙間でも証拠資料となるか。
(1) 前述の通常共同訴訟の性質に鑑み、かかる証拠資料は丙が援用しない限り、甲丙間の証拠資料とすべきでないとも思える。しかし、かかる立場に立つと、裁判所の自由心証主義を害する。また、一つの歴史的事実に対する心証は一つである。そのため、自由心証主義は共同訴訟人独立の原則に優先すると解する。
(2) よって、甲乙間の証拠資料は甲丙間の証拠資料にもなると解する。
2 以上より、上記影響を及ぼす。