答案例
1 補強証拠を必要とする(補強法則、憲法38条3項、刑訴法319条2項)趣旨は、自白の偏重による誤判を防止する点にある。そこで、被告人の人権保護のため、犯罪事実の証明においてはおよそ補強証拠を必要とすべきとも思える。しかし、常に補強証拠を必要とすることは真実発見(1条)の見地から妥当でない。また、補強法則は自由心証主義(318条)の例外であるから、明確な基準の下適用されるべきである。さらに、犯罪事実の主観的側面は、被告人の内面作用の問題であるから、通常自白以外に証明する方法がない。そこで、補強証拠が必要となる事実は、犯罪事実の客観的側面の主要部分(罪体)であると解する。なお、判例は補強証拠が必要となる事実は、自白にかかる事実の真実性を担保する限度で必要な事実と解している。しかし、かかる見解は、補強証拠が自白から独立して取り調べられることを要求している規定(301条)を有する現行法と整合しない。よって、判例の見解は採用できない。
2 小問1
(1) 小問1の事実は被告人と犯人の同一性(犯人性)に関するものである。そこで、犯人性は罪体に含まれるか。
(2) 犯人性の誤りは自白の偏重による誤判の最たるものであるから、犯人性の事実は罪体にあたるとも思える。しかし、かかる立場と採れば証拠収集が困難を極め、犯罪の立証の有無が偶然に左右されかねない。よって、犯人性は罪体に含まれないと解する。
(3) 以上より、小問1の事実の立証に補強証拠は不要である。
3 小問2
(1) 無免許の事実が罪体に含まれるか。
(2) 無免許運転罪は自動車の運転行為と無免許の事実で構成される。そして、自動車の運転行為は一般的・日常的に行われる行為であるから、無免許運転罪を犯罪たらしめる主要な要素は無免許の事実であると解される。よって、無免許の事実は罪体に含まれると解する。
(3) 以上より、小問2の事実の立証に補強証拠が必要である。
4 小問3
(1) 被告人が所持物を覚せい剤であると知っていた事実は故意である。そして、故意は犯罪事実の主観的側面であるから、罪体に含まれない。
(2) よって、小問3の事実の立証に補強証拠は不要である。
5 小問4
(1) 小問4の事実が罪体に含まれるか。
(2) 覚せい剤所持罪を犯罪たらしめる主要な要素は覚せい剤の所持の事実である。また、覚せい剤を適法な許可の下で所持していることは稀である。よって、覚せい剤所持の無許可の存在が犯罪成立の要件ではなく、覚せい剤所持の許可の存在が犯罪成立の阻却要件であると解する。よって、小問4の事実は罪体に含まれない。
(3) 以上より、小問4の事実の立証に補強証拠は不要である。