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商法

平成28年予備試験 商法論文

答案例

第1 設問1
1 丙は本件手形を所持している。また、各裏書の記載が手形面上で受取人乙から最終被裏書人丙まで間断なく続いているので、裏書の連続がある。しかし、本件手形はCが独断で「甲株式会社代表取締役A」という機関方式で振出したものであるから、偽造手形である。よって、甲は原則本件手形上の責任を負わない。
2 もっとも、取引の安全の観点から甲が責任を負わないか。
(1) 無権限者による代理方式の振出しは無権代理であり、民法の表見代理規定が適用されるところ、偽造は無権限者による本人名義の手形行為である点で無権代理と共通する。そして、偽造の場合にも第三者保護という表見代理の趣旨が妥当する。よって、偽造の場合に表見代の規定が類推適用されうると解する。
(2) これを本件についてみると、CはかねてよりAの指示に従って手形を作成し、取引先に交付していたので、基本権限があった。また、AとCは夫婦であるから、AがCに手形振出しという責任重大な行為を行わせることに不自然とはいえない。さらに、Aは入院していたが、かかる事実は取引先等に伏せていたので、乙が本件手形の振出しにAが関与していないと疑うことはできなかった。
(3) 以上より、乙にはCが本件手形を振出す権限があると信じることに正当な理由がある。よって、民法110条が類推適用され、Cは有効に本件手形上の権利を取得し、乙から裏書譲渡を受けた丙も有効にかかる権利を取得したといえる。
3 以上より、甲は拒むことができない。
第2 設問2合併効力発生前
1 Dは本件株主総会の決議の日から3ヶ月以内に甲を被告として、株主総会決議の取消しの訴えを提起する(831条1項、834条17号)。
(1) もっとも、Aの名義の株式を共同相続したCDEは甲株式を共有するところ、106条に基づく通知をしていないので、当該株式についての権利を行使できず、原告適格を有しないのではないか。
ア 同条の通知をしていない株主は原則原告適格を有しない。しかし、甲は議決権を行使できる株主の議決権の過半数が本件株主総会に出席したことを前提として本件株主総会の決議の有効性を主張する立場にある。それにもかかわらず、甲が、議決権の過半数を有するA名義の株式の共有者が106条に基づく通知をしていないことを理由に原告適格を争うことは106条の趣旨を同一訴訟手続内で恣意的に使い分けることを意味する。よって、かかる甲の主張は防御権の濫用に当たり、信義則に反し許されない。
イ したがって、Dに原告適格がある。
(2) そこで、本件株主総会に取消事由があるか。なお、CDEは126条3項の通知をしていないので、本件招集通知を共有者の一人であるCのみに発したことは適法である(同条4項)。
ア 106条本文は民法264条本文の特則であると解される。そして、106条ただし書に該当すればかかる特則が排除され、民法264条本文が適用されると解する。
イ 本件では、甲がCに議決権行使に関して同意を与えているから、A名義の株式の議決権は民法の原則どおり議決権の過半数で決せられる(管理行為、民法252条)。そうであればCの単独での議決権行使は民法252条に反する。よって、「決議の方法が法令・・・に違反」する。
ウ また、Cの議決権行使が無効であるのに、有効とした事実は重大であるから、831条2項に該当しない。
(3) よって、上記訴えが認められる。
2 その上で、Dは784条2の吸収合併の差止請求及びかかる請求権を保全するための仮処分の申立て(民事保全法23条2項)をする。
(1) 本件合併契約の承認は取消事由が存する本件株主総会でなされているから、確定的に有効な承認決議を経ていないので、吸収合併が法令に違反する(同条1号)。また、本件合併によりDが株式を失うので、「不利益を受けるおそれ」がある。
(2) よって、上記請求及び申立ては認められる。
第3 設問2合併効力発生後
1 Dは本件株主総会取消しの訴えを提起できるとも思える。しかし、画一的な処理の手段として無効の訴えが設けられた趣旨に鑑み、合併効力発生後は総会取消しの訴えは合併無効の訴えに吸収される。そのため、Dは丁を被告として(834条7号)、効力発生日から6か月以内に本件合併の無効の訴えを提起する(828条1項7号)。
(1) そこで、無効事由が存するか。
ア 合併を前提とした法律関係の法的安定性の要請から、無効事由は重大な瑕疵に限られると解する。
イ これを本件についてみると、合併承認決議に取消事由がある。そして、承認決議は株主の意見を反映する重要な手続きである。よって、重大な瑕疵がある。
ウ 以上より、無効事由がある。
(2) もっとも、株主総会決議の効力の早期確定という831条1項の趣旨貫徹のため、上記無効事由を理由とする上記訴えは、本件株主総会決議から3ヶ月に提起しなければならないと解する。
2 以上より、上記請求は認められる。

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