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刑事訴訟法

平成10年旧司法試験 刑事訴訟法論文第2問

答案例

第1 覚せい剤の証拠能力
1 本件覚せい剤は、収集過程において偽造の供述調書を用いているので、証拠能力が否定されないか。違法収集証拠排除法則の適用の可否が問題となる。
(1) 適正手続きの保障(憲法31条)、司法の廉潔性及び将来の違法捜査抑制の観点から違法収集証拠の証拠能力は否定されるべきである。もっとも、軽微な違法な場合にまで証拠能力を否定することは真実発見(1条)の見地から妥当でない。そこで、①証拠物の押収等の手続に令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)の精神を没却するような重大な違法があり、②これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合には証拠能力を否定すべきである。
(2) これを本件についてみると、本件捜索差押許可状は偽造の供述調書を唯一の資料として発付をされたものである。よって、偽造の供述調書がなければ本件捜索差押許可状の発付はありえなかった。また、本件偽造は有印私文書偽造罪(刑法159条1項)などにあたりうる犯罪行為である。したがって、かかる手段を用いることには重大な違法がある(①)。また、偽造の供述証拠を唯一の資料として発付された令状によって収集された証拠に証拠能力が認められれば、将来同様の方法で証拠収集がなされる危険性があるから、証拠能力を認めることは相当でない(②)。
(3) よって、違法収集証拠排除法則により、本件覚せい剤の証拠能力は認められないとも思える。
2 もっとも、甲が公判で本件覚せい剤の取調べに異議(309条1項)がないと述べているので、証拠能力が認められないか。
(1) 証拠能力が認められることで不利益を被る被告人が異議を述べていないので、証拠能力が認めるべきとも思える。しかし、司法の廉潔性の確保のためには被告人の意思を過度に尊重すべきではない。そこで、手続きの基本的公正に反する重大な違法がある場合に証拠能力を否定すべきであると解する。
(2) これを本件についてみると、前述のとおり本件捜索差押許可状の発付手続きには手続きの基本的公正に反する重大な違法がある。
(3) よって、甲が、異議がないと述べても証拠能力は認められない。
3 以上より、本件覚せい剤に証拠能力は認められない。
第2 自白調書の証拠能力
1 甲の逮捕及び取調べ自体には違法性を認める事情はない。しかし、本件自白調書は本件覚せい剤から派生して得られたものであるから、かかる点を理由に証拠能力が否定されないか。違法収集証拠の派生証拠の証拠能力が問題となる。
(1) 違法収集証拠の派生証拠の証拠能力を否定しなければ、違法収集証拠排除法則が骨抜きになる。もっとも、真実発見(1条)の見地から、かかる場合のすべてにおいて証拠能力を否定することは妥当でない。そこで、派生証拠に違法収集証拠排除法則が及ぶかは違法の程度と両証拠の関連性を考慮して判断すべきである。
(2) これを本件についてみると、前述の通り第一次証拠たる本件覚せい剤の収集方法には重大な違法がある。そして、本件自白調書が作成された取調べは本件逮捕に起因するものである。さらに、本件逮捕は本件覚せい剤を資料として発付された逮捕状に基づきなされている。そうであれば本件覚せい剤がなければ本件逮捕及び本件取調べは成立しなかったので、本件覚せい剤及び本件自白調書は密接な関連性を有する。
(3) よって、本件自白調書に違法収集証拠排除法則が適用される。
2 もっとも、甲は公判で本件自白調書の取調べに同意(326条1項)しているので、証拠能力が認められないか。
(1) 前述と同様に検討すると、本件覚せい剤の収集手続きに重大な違法があり、本件覚せい剤と本件自白調書は密接な関連性を有する。よって、本件自白調書の収集過程には手続きの基本的公正に反する重大な違法がある。
(2) よって、同意によって証拠能力は付与されない。
3 以上より、本件自白調書に証拠能力は認められない。

解説

本件自白調書の証拠能力の検討にあたっては次の2つのパターンが考えられる。

  1. 本件覚せい剤から派生する証拠として証拠能力を否定する。(毒樹の果実)
  2. 本件捜索差押に続く逮捕・取調べを、「違法性の承継」の理論で違法と認定し、かかる取調べから得られた自白証書の証拠能力を否定する。(違法の承継及び違法収集証拠排除法則)

本答案例は上記1のパターンで論述している。

上記2のパターンでは自白法則で証拠能力を検討することもできる。すなわち、違法性が承継された結果、違法となった取調べを、「任意にされたものでない疑」(319条1項)いがあるとして、証拠能力を否定する。もっとも、これは自白法則における違法排除説を前提とする。

なお、本件では自白調書の収集過程に、虚偽自白を誘発する状況や黙秘権を中心とする人権を不当に圧迫する状況はないので、自白法則における虚偽排除説、人権擁護説及び任意性説のいずれを採っても証拠能力が肯定される。

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