法の支配
法の支配とは国家権力の専断的な支配、すなわち人の支配を排除し、法で権力を拘束して、国民の権利・自由を保護する考え方である。そして、法の支配は英米法に由来する原理である。
法の支配と比較される概念として、形式的法治主義がある。形式的法治主義は大陸法に由来する原理である。形式的法治主義は、「法で権力を拘束する」点で法の支配と同じである。
しかし、形式的法治主義は法の内容は問われないのに対し、法の支配は法の内容が問われる。すなわち、法の支配は法の内容が合理的である必要がある。よって、両者は法の内容が異なる。
また、法の支配は民主主義と不可分に結合するが、法治主義はいかなる政治形態とも結合する。よって、両者は結合する政治体制が異なる。
日本国憲法への現れ
人権保障規定への現れ
法の支配の目的は国民の権利・自由の保護である。そこで、日本国憲法は第3章で詳細な人権規定を置いている。また、13条前段で個人を尊重している。よって、法の支配は日本国憲法の人権保障規定に現れている。
適正手続条項への現れ
国民の権利・自由を保護するためには国民が国家権力により不当に拘束されないことが重要である。そこで、日本国憲法では適正手続条項が定められている(31条以下)。そして、適正手続条項は国民の権利・自由の保護を実効化するものである。よって、法の支配は日本国憲法の適正手続条項に現れている。
最高法規性への現れ
専断的な国家権力の支配を排除するため、権力を憲法という「法」に従わせる必要がある。そこで、日本国憲法は最高法規性を定めている。具体的には、97条は基本的人権に対する国家権力の不可侵性を規定し、実質的最高法規性を定めている。また、98条1項は憲法を最高法規と位置づけ、憲法が形式的効力という点で、国法秩序において最上位にあることを定めている。すなわち、98条1項は形式的最高法規性を定めている。さらに、99条は最高法規性を担保するために公務員に憲法尊重擁護義務を負わせている。以上より、法の支配は日本国憲法の最高法規性に現れている。
裁判所の役割強化への現れ
国民の権利・自由を保護するため、国民の権利・自由が侵害された場合に国民の救済手段の確保が重要である。そこで、日本国憲法は裁判所の役割を強化している(76条以下)。具体的には、すべての司法権を裁判所に独占させ(76条1項)、特別裁判所の設置を禁止し(76条2項)、裁判官の身分を保障している(78条)ことなどが挙げられる。また、民主政の過程において少数者への人権侵害が発生した場合の救済が必要である。そこで、違憲審査権(81条)によって、立法による人権侵害が発生した場合の救済を図っている。よって、法の支配は日本国憲法の裁判所の役割強化に現れている。