憲法基本書

憲法12(議院の権能・国会議員の特権 ・内閣・衆議院の解散)

議院の権能

議院の自律権

国会は衆議院及び参議院で構成され(42条)、この議院は各々自律権を有している。議院の自律権とは、議院が他の国家機関から干渉されることなく、審議・議決をする権限をいう。

議院の自律権について、憲法は次のように規定している。

  • 議員の釈放要求(50条後段)
  • 議院の資格争訟裁判(55条)
  • 役員の選任(58条1項)
  • 議院の規則制定権(58条2項)
  • 議院の懲罰(58条2項)

以上が議院の自律権の現れである。

国政調査権

権能

62条は両議院に国政調査権を与えている。国政調査権とは、議院が国の政治に関して調査をし、また調査に際して証人の出頭・証言や記録の提出を求めることができる権利である。ただし、調査の対象・方法には一定の制約があると解される。この一定の制約を伴う国政調査権の調査権限を補助的権能という。国政調査権の制約については次のものとの関係が重要である。

  • 司法権
  • 検察官
  • 一般行政権
  • 人権

制約

司法権との関係

裁判内容の当否判断のための調査や、裁判官の訴訟指揮の調査は許されない。

※裁判官の訴訟指揮とは、裁判に際しての裁判官の手際をいう。

なお、裁判所で審理中の事件でも、裁判所と異なる目的(立法目的・行政目的)で調査することは許される。

検察官との関係

検察事務は行政権の作用であるから、国政調査権の対象となるとも思える。しかし、検察事務は司法的作用を含むので司法権に準じた扱いが必要である。

一般行政権との関係

一般行政権に対しては全面的に調査の対象となる。

人権との関係

国民の権利・自由を侵害する国政調査は許されない。

国会議員の特権

不逮捕特権

国会議員は国会の会期中、法律の定める場合を除いては逮捕されない(50条前段)。また、会期前に逮捕された場合でも、議院が要求すれば釈放される(50条後段)。

そして、50条前段の「法律の定める場合」すなわち、国会議員が国会の会期中でも逮捕される場合とは次の場合である。

  • 院外における現行犯の場合(国会法33条)。
  • 院の許諾がある場合(国会法33条)。

免責特権

議員は院で行った演説、討論又は表決について院外で責任を問われない(51条)。これは、刑事上及び民事上いずれの責任も問われないことを意味する。

【関連判例】

  • 国会議員名誉棄損発言事件(最判平成9年9月9日)

歳費受領権

議員は国庫から相当額の歳費を受領する(49条)。

内閣

行政権と内閣

65条は、行政権が内閣に属することを規定している。この65条の趣旨は、権力分立を規定し、行政権に民主的コントロールを及ぼすことにある。そして、行政権とは、すべての国家作用から立法及び司法を除いたものと解されている(控除説)。

議院内閣制

日本国憲法は議院内閣制を採用している。議院内閣制は、議会と政府の関係性に関する仕組みのことである。そして、議院内閣制においては、議会と政府は一応分離しているが、議会が政府をコントロールしている。ここで、日本国憲法において、「議会」とは「国会」を、「政府」とは「内閣」を指す。よって、内閣の成立と存続は、国会の信任に基づくことになる。

また、日本国憲法が議院内閣制を採用していることは、日本国憲法の次の規定から根拠づけられる。

  • 内閣総理大臣及び国務大臣の議院への出席(63条)
  • 内閣の国会に対する連帯責任(66条3項)
  • 国会が、国会議員の中から内閣総理大臣を指名すること(67条1項)
  • 国務大臣の過半数を国会議員から選任すること(68条1項但書)
  • 衆議院の内閣不信任決議(69条)
  • 総選挙後の内閣の総辞職(70条)

内閣の総辞職

69条及び70条に内閣が総辞職する場合が定められている。

独立行政委員会

独立行政委員会は合議制の行政機関である。(例:人事院、公正取引委員会、国家公安委員会)

※合議制とは、行政機関の意思が複数の構成員の話し合いによって決定される制度である。

そして、独立行政員会は、特定の行政について内閣から独立した地位で職権を行使することが認められている。

ここで、独立行政委員会の存在が65条に反しないかが問題となる。すなわち、65条で「行政権は、内閣に属する」と規定されているところ、独立行政委員会という行政権が内閣から独立する地位を有することが65条に反しないかが問題となる。

これについては独立行政委員会の制度は、次の理由から65条に反しないと解される。

65条の趣旨は、前述の通り、権力分立と行政権への民主的コントロールの確保であると解される。そして、独立行政委員会は内閣から権力を分立させるものである。また、独立行政委員会に対しては、国政調査権(62条)を通して国会による民主的コントールが可能である。よって、独立行政委員会を認めても65条の趣旨に反しないと解される。

内閣の組織

構成

内閣は内閣総理大臣及び国務大臣で構成される(66条1項)。また、内閣総理大臣及び国務大臣は文民でなければならない(66条2項)。

※文民の定義については諸説あるが、「軍人でない者」と理解しておけばよい。

内閣総理大臣

内閣総理大臣は国会議員の中から、国会の議決で指名される(67条1項)。また、内閣総理大臣の権限については下記の条文に規定がある。

  • 68条(国務大臣の任免権)
  • 72条(行政各部への指揮監督権等)
  • 74条(法律・政令への署名)
  • 75条(国務大臣の訴追の同意権)

【関連判例】

  • ロッキード事件(最大判平成7年2月22日)

国務大臣

国務大臣は内閣総理大臣に任命・罷免される(68条)。また、在任中は内閣総理大臣の同意がなければ訴追されない(75条)。

※「訴追」とは、刑事裁判にかけられることである。

内閣の事務

内閣の事務については73条等に規定されている。

第73条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。

衆議院の解散

意義

衆議院の解散とは、衆議院議員の任期満了前に、その議員資格を失わせる行為である。衆議院の解散には、内閣による議会の抑制という自由主義的意義と、解散後の総選挙によって民意を反映するという民主主義的意義がある。

効果

衆議院が解散されると、解散の日から40日以内に衆議院議員総選挙を行い、その選挙から30日以内に国会を召集しなければならない(54条1項)。また、衆議院が解散されると、参議院は同時に閉会となる(54条2項)。

衆議院の解散権

問題の所在

7条3号は天皇の国事行為として、衆議院の解散を規定している。しかし、天皇の国事行為は形式的・儀礼的行為なものにすぎない。そこで、衆議院の実質的解散権を誰が有し、その根拠がどこにあるかが問題となる。

これに関しては主に次の説がある。

  • 69条説
  • 65条説
  • 制度説
  • 7条説

69条説

69条説では、衆議院の解散は69条の場合のみできる。この説は条文に充実な解釈ですが、硬直的で実務にそぐわない説である。

第69条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

65条説

65条説では、衆議院の解散は、65条に基づいて内閣ができる。

この説は控除説を前提としている。つまり、衆議院の解散は立法作用でも、司法作用でもないから、行政作用に属する。そして、行政権は内閣に属する(65条)ので、衆議院の解散権は内閣に属するという結論に至る。

第65条 行政権は、内閣に属する。

制度説

制度説は、衆議院の解散は、日本国憲法の制度上、内閣ができるという説である。

この説は日本国憲法が議院内閣制を採用していることを根拠に、内閣に解散権を認める。しかし、一方で内閣に解散権があることを根拠に、日本国憲法が議院内閣制を採用しているという見解がある。よって、この説に対しては、循環論法であるとの指摘がされる。

7条説

7条説では、衆議院の解散は、7条3号を根拠に内閣ができる。

この説の根拠は下記である。

天皇は国政に関する権能を有しない(4条1項)から、本来は政治色の強い衆議院の解散をすることができないはずである。しかし、7条3号で天皇の国事行為として衆議院の解散が規定されている。これは、内閣に衆議院の解散の実質的決定権があり、その内閣の助言と承認によることで、天皇は形式的に衆議院の解散をすることができる。

しかし、この説に対しては天皇の国事行為は元々形式的なものであるから、内閣の助言と承認の結果、形式的行為となるものではないという指摘がされる。

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