憲法基本書

憲法13(裁判所・司法権の限界・司法権の帰属 ・司法権の独立・裁判の公開)

裁判所

司法権

76条1項は、司法権が最高裁判所及び下級裁判所に帰属すると規定している。

司法権とは、法を適用し、宣言することで具体的な争訟を裁定する国家の作用である。

法律上の争訟

司法権は裁判所の権限であるが、裁判所はあらゆる紛争を裁判するわけではない。すなわち、裁判所が、裁判するのは原則「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)に限られる。そして、判例(最判昭和56年4月7日)は、「法律上の争訟」を、「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であつて、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるもの」と解釈している。

※なお、「法律上の争訟」と「具体的な争訟」とは同じ意味である。

この「法律上の争訟」の判例の解釈によれば、次の場合は「法律上の争訟」にあたらない。

  • 具体的な紛争が発生していないのに、法令の解釈を争うこと。(例:法令の違憲性を抽象的に主張する。)
  • 単なる事実の存否を争うこと。(例:歴史上事実の有無を争う。)
  • 信仰の対象の価値に関して判断を求めること。(例:仏像修復のために寄付をした者が、仏像が偽物であることを理由に寄付金の返還を求める。)

【関連判例】

  • 警察予備隊訴訟(最大判昭和27年10月8日)
  • 板まんだら事件(最判昭和56年4月7日)

客観訴訟

前述のとおり、裁判所が裁判するのは、原則「法律上の争訟」に限られるが、例外的に「法律において特に定める」(裁判所法3条1項)ものを裁判することがある。この「法律において特に定める」(裁判所法3条1項)ものには客観訴訟がある。客観訴訟は具体的事件の存在を前提としない訴訟である。そして、客観訴訟は民衆訴訟(行政事件訴訟法5条)と機関訴訟(行政事件訴訟法6条)にわけれられる。

裁判所の組織

憲法76条1項は、裁判所について最高裁判所及び下級裁判所を規定する。そして、憲法76条1項の委任を受けた裁判所法2条1項は、下級裁判所を、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所と規定する。

また、日本国憲法は最高裁判所の権限を次のとおり規定している。

  • 規則制定権(77条1項)
  • 下級裁判所裁判官の指名権(80条1項)
  • 違憲審査権(81条)

司法権の限界

「法律上の争訟」であれば、原則裁判所による審査の対象となるが、「法律上の争訟」に該当しても、例外的に裁判所の審査が及ばない場合がある。裁判所の審査が及ばない場合とは、次の場合である。

  • 憲法の条文上、裁判所の審査権限がない(=憲法の明文による限界)。
  • 審査対象である「法律上の争訟」につき、日本国内だけの問題でなく、外国との関係性を有する(=国際法上の限界)。
  • 憲法の解釈上、裁判所の審査になじまない(憲法解釈上の限界)。

この司法権が及ばない場合を具体的に説明する。

憲法の明文による限界

55条は議員の資格に関する争訟の裁判を、議院が行うと規定している。また、64条は弾劾裁判所を国会に設けると規定している。

国際法上の限界

条約に対する裁判所の審査は日本国内では効力を有する。しかし、日本国の裁判所の審査が、条約を締結している相手国を拘束するとは限らない。よって、外国との関係において裁判権が制限されることがある。

※条約とは、国家間の合意である。

憲法解釈上の限界

議院の自律権

議院の自律権とは、議院がその内部事項について自主的に決定できるという議院の権限である。議院の自律権が認められる場合、議院の行為には司法権は及ばない。例えば、58条2項の国会議員に対する懲罰権がある。

【関連判例】

  • 警察法改正無効事件(最大判昭和37年3月7日)

裁量行為

立法権や行政権の行為に裁量が認められる場合、その行為には原則司法権は及ばない。これは立法権や行政権の裁量については合法・違法と言うより、当・不当が問題となることが多いからである。裁量行為には、行政による生活保護の認定や、積極目的規制に関する立法などがある。

但し、裁量行為と言えど、その裁量に逸脱・濫用があれば司法権が及ぶ。

統治行為

統治行為とは、国家を治めることに直接関わる、高度の政治性のある国家行為を指す。統治行為に対しては原則司法権は及ばない。なぜなら、統治行為に対しては政治部門で解決することが望ましいからである。

【関連判例】

  • 砂川事件(最大判昭和34年12月16日)
  • 苫米地事件(最大判昭和35年6月8日)

部分社会の法理

部分社会の法理とは、自律的な規律を有する団体内部の紛争には司法権が及ばない法理を指す。ただし、その紛争が団体内部の問題にとどまらず、一般市民秩序と直接関連する紛争については司法権が及ぶことがある。例えば、大学内の単位認定については原則司法審査の対象とならないが、大学の退学処分は司法審査の対象となることがある。なぜなら、大学退学処分となると、大学中退扱いとなり、退学者の市民生活に重大な影響をもたらすからである。

【関連判例】

  • 富山大学事件(最判昭和52年3月15日)
  • 共産党袴田事件(最判昭和63年12月20日)
  • 地方議会議員懲罰事件(最判昭和35年10月19日)

司法権の帰属

特別裁判所の禁止

76条2項前段は特別裁判所の設置を禁止している。特別裁判所とは、特定の人又は特定の事件を裁判をするための機関で、裁判所の系列から独立しているものを指す。(例:軍法会議)

行政機関による終審裁判所の禁止

また、76条2項後段は行政機関が終審として裁判することを禁止している。なお、終審ではなく、前審として裁判することは許される。(例:行政不服審査法に基づく行政機関の裁決)

司法権の独立

意義

司法権の独立とは、次のことを意味する。

  • 裁判官の職権の独立
  • 司法府の独立

なお、「裁判官の職権の独立」は司法権の独立の中心となるものである。また、「司法府の独立」は、「裁判官の職権の独立」を保障するための手段である。

司法府の独立

司法府の独立とは、裁判所が他の権力から独立して、自主的に活動できることを意味する。

司法府の独立を保障するため、憲法には次の規定がある。

  • 最高裁判所の規則制定権(77条1項)
  • 裁判所による裁判官の懲戒処分(78条後段)
  • 最高裁判所による下級裁判所裁判官の指名(80条1項)

裁判官の職権の独立

裁判官の職権の独立については、76条3項で保障されている。

第76条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
② 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
③ すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

裁判官の身分保障

裁判官の職権の独立を確保するために、憲法は裁判官の身分保障について次のように規定している。

  • 罷免事由の限定
  • 懲戒権者の限定
  • 相当額の報酬の受領

裁判官の身分保障の規定も「裁判官の職権の独立」を保障するための手段である。

罷免事由の限定

裁判官の罷免事由は次のものである。

  • 心身の故障(78条前段)
  • 弾劾裁判による罷免(78条前段)
  • 国民審査による最高裁判所裁判官の罷免(79条2項)

上記の事由以外では裁判官は罷免されない。

懲戒権者の限定

行政機関は裁判官の懲戒処分をすることができない(78条後段)。

相当額の報酬の受領

裁判官は相当額の報酬が保障され、在任中減額されない(79条6項、80条2項)。

裁判の公開

82条1項は裁判を公開することを定めている。これは、裁判の公正を保ち、裁判に対する国民の信頼を保護する趣旨である。

ところで、裁判には対審と判決の過程がある。対審とは、当事者が裁判官の前で主張することである。判決とは、裁判官が自己の判断を示すことである。そして、裁判の「判決」は絶対公開であるが、「対審」については非公開にできる場合がある(82条2項)。

第82条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
② 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

【関連判例】

  • レペタ訴訟(最大判平成元年3月8日)

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