権力分立
内容
権力分立とは、国家の作用を分離して、国家作用相互の抑制・均衡を保つ制度である。国家作用が1つに集中すると、それが濫用され、国民の権利・自由が侵害される恐れがある。よって、権力を分立させる必要がある。
日本国憲法では、立法権を国会に(41条)、行政権を内閣に(65条)、司法権を裁判所に(76条1項)それぞれ帰属させている。
変容
権力分立の形態は様々である。そして、その形態は時代の流れと共に変容している。この「時代の流れ」を表す主なものには、次のものがある。
- 行政国家現象
- 政党国家現象
- 司法国家現象
行政国家現象
行政国家現象とは、行政活動の役割が大きくなることに伴い、行政府が国の基本政策の形成・決定につき中心的な役割を担っている現象である。
政党国家現象
政党国家現象とは、政党が国家の意思形成に重要な役割を担っている現象である。
司法国家現象
司法国家現象とは、裁判所による違憲審査により、司法権が議会・政府の活動をコントロールする現象である。
天皇
天皇の地位・行為
天皇の地位及び行為に関しては次のとおりである。
- 天皇は日本国及び日本国民統合の象徴である(1条)。
- 天皇の地位は世襲である(2条)。
- 天皇の権限は憲法の定める国事に関する行為に限定される(4条1項)。
- 天皇は国政に関する権能を有しない(4条1項)。
「国事に関する行為」(4条)は国事行為と呼ばれる。国事行為とは、国家の政治や統治に関係しない形式的・儀礼的行為を指し、6条及び7条に規定されている。また、天皇が国事行為を行うには、内閣の助言と承認が必要である(3条)。
皇室財産
8条及び88条は皇室財産について規定している。
天皇と民事裁判権
天皇に民事裁判権は及ばないとするのが判例である(最判平成元年11月20日)。
国会
国会の地位
総説
国会は下記の3つの地位を有する。
- 国民の代表機関(43条1項)
- 国権の最高機関(41条)
- 唯一の立法機関(41条)
国民の代表機関
43条1項は、国会議員は「全国民を代表」すると規定しているが、「代表」の意味については解釈が分かれる。すなわち、「代表」の意味を、「民意の統合」とする解釈及び「民意の反映」とする解釈がある。
まず、「民意の統合」においては、「代表」の意味について、全国民の抽象的・観念的な意思が国会議員によって統一的に意思決定されることであると解される。「民意の統合」においては、国会議員は有権者の意思に拘束されず、自由な意思で行動すべきであるとされる。そして、このような国会議員の立場を自由委任という。また、自由委任により選ばれた国会議員を、「政治的代表」または「純粋代表」と表現することがある。
次に、「民意の反映」においては、「代表」の意味について、有権者の意思を忠実に反映することであると解される。「民意の反映」においては、国会議員は有権者の意思に拘束される。そして、このような国会議員の立場を命令委任という。また、命令委任より選ばれた国会議員を「法的代表」と表現することがある。
43条1項の「代表」の解釈について、43条1項が「全国民」と規定し、また51条で国会議員に免責特権が認められていることからすると、43条1項の「代表」とは、「民意の統合」と解釈するのが自然である。もっとも、社会の在り方や国民の価値観が多様化した現代では、国会議員は有権者の要望を政策に忠実に反映する必要もある。よって、43条1項の「代表」は、「民意の統合」だけでなく、「民意の反映」の側面も有していると解釈すべきである。そして、「民意の統合」及び「民意の反映」のいずれの要素を含み、自由委任及び命令委任を受けた国会議員を「社会学的代表」または「半代表」表現することがある。
国権の最高機関
41条は国会を「国権の最高機関」であると規定している。この「最高機関」の意味については複数解釈が存在するが、ここでは政治的美称説を紹介する。政治的美称説においては、41条の「最高機関」は特別の意味を持たないとされる。すなわち、「最高機関」という言葉は、「国会が、国民から選挙で選ばれた国会議員で構成されるので、国政において重要な地位にある」ということを強調するものに過ぎないと解される。
唯一の立法機関
また、41条は国会を「唯一の立法機関」であると規定している。この「唯一」及び「立法」について解釈する必要がある。
まず、「立法」には一般に、「形式的意味の立法」と「実質的意味の立法」の2つの意味がある。「形式的意味の立法」とは、国法の一形式である「法律」を作ることである。ここでの「法律」は中身は問われず、国法の名称が「法律」であればよい。
これに対し、「実質的意味の立法」とは、ある特定の意味を持つ法規範を作ることである。「実質的意味の立法」の概念においては、作られる法規範について、「法律」という名称がつくか否かは関係なく、法規範の中身に着目する。
そして、41条の「立法」とは実質的意味の立法を指すと解される。
41条の「立法」を実質的意味の立法と捉えれば、41条における「ある特定の意味」とは何かが問題となる。これに関しては、「ある特定の意味」を、「国民の権利を直接制限し、義務を課す法規範」と解する説と、「一般的抽象的法規範」と解する説がある。
例えば、国民に税金を課す法規範の作成は、「国民の権利を直接制限し、義務を課す法規範」と解する説と、「一般的抽象的法規範」と解する説いずれの考え方によっても「立法」となる。しかし、国民に直接関係のない、行政の内部組織に関する法規範の作成は、「一般的抽象的法規範」と解する説においては「立法」となるが、「国民の権利を直接制限し、義務を課す法規範」と解する説では「立法」とはならない可能性がある。
次に、41条の「唯一」とは、国会中心立法の原則と国会単独立法の原則を意味すると解される。
国会中心立法の原則とは、立法は憲法の特別の定めを除いて国会が行うという原則である。そして、憲法の特別の定めには、両議院の規則制定権(58条2項)及び最高裁判所の規則制定権(77条1項)がある。
国会単独立法の原則とは、立法は国会以外の機関の関与なしに成立するという原則である。なお、この例外として、95条の地方特別法の制定手続きがある。
国会の組織と活動
二院制
国会は衆議院と参議院で構成される(42条)。衆議院の任期は4年だが、衆議院が解散された場合、任期はそこで終了する(45条)。参議院の任期は6年で、3年ごとに半数が改選される(46条)。
会期
国会は常時活動するのではなく、一定期間のみ活動する(会期制)。そして、活動の期間によって、常会(52条)、臨時会(53条)及び特別会(54条1項)に分けられる。
また、国会の別形態として、参議院の緊急集会(54条2項)がある。緊急集会とは、衆議院が解散された場合に、緊急の必要があるときに内閣が召集を求めるものである。
弾劾裁判所
国会には裁判官を裁判する権限がある(64条)。この、裁判官を裁判するための裁判所を弾劾裁判所という。
議決
国会は、両議院各々総議員の3分の1以上が出席しなければ議事を開き、議決することができない(定足数、56条1項)。そして、表決は憲法の特別の定めがある場合を除いて、出席議員の過半数で決め、可否同数の場合は議長が決める(56条2項)。なお、表決とは、議案に対して可決か否決かを決めることである。
また、表決に関する特別の定めには次のものがある。
- 55条但書(議員議席のはく奪)
- 57条1項但書(秘密会の開催)
- 58条2項但書(議員の除名)
- 59条2項(法律案の再可決)
- 96条1項前段(憲法改正の発議)
国会の諸原則
公開
両議院の会議は原則公開される(57条1項本文)。但し、出席議員の3分の2以上の多数で議決した場合は秘密会にすることができる(57条1項但書)。
また、出席議員の5分の1以上の要求があれば、各議員の表決は会議録に記載しなければならない(57条3項)。
衆議院の優越
国会の審議においては、衆議院はアクセル、参議院はブレーキの役割を果たすことが望まれる。すなわち、民意を反映しやすい衆議院が国民のための法案を積極的に提案し、参議院が専門技術的な見地から法案の修正をすることが望まれる。そして、両議院の意見が最終的に一致しない場合は衆議院が優先されることがある。このように衆議院の議決が優先されることを衆議院の優越という。
衆議院の優越が認められるのは、衆議院は参議院より任期が短く、また解散があるので、衆議院は参議院より民意を反映しやすいからである。
衆議院の優越が認められるものには次のものがある。
- 法律案の議決(59条2項)
- 予算の議決(60条2項)
- 条約承認の議決(61条)
- 内閣総理大臣の指名(67条2項)
また、衆議院には参議院にない次の権限がある。
- 予算先議権(60条1項)
- 内閣不信任決議権(69条)
会議不継続の原則
会議不継続の原則とは、国会の会期中に議決に至らなかった案件は後会に継続しない原則をいう(国会法68条本文)。
一事不再議の原則
一事不再議の原則とは、一度議院が議決した案件は同一会期中は審議しない原則をいう。
両院同時活動の原則
両院同時活動の原則とは、両院は同時に開会し、同時に閉会する原則をいう(同時閉会につき、54条2項)。
両院独立活動の原則
両院独立活動の原則とは、両院はそれぞれ独立して議事・議決を行う原則をいう。