憲法基本書

憲法14(財政民主主義・租税法律主義・財政支出に関する原則・予算・地方自治・条例・憲法改正)

財政民主主義

財政とは、国家が国民から金銭を徴収し、それを管理・使用することである。そして、83条は、財政の適正化を図るために財政を、国会の監視下に置くことを規定している。このような仕組みを財政民主主義という。

租税法律主義

租税

租税とは、国又は地方公共団体が強制的に徴収する金銭である。そして、84条は、租税は法律に基づいて課されることを規定している。これを租税法律主義という。租税法律主義は、課税要件法定主義及び課税要件明確主義から構成される。

租税法律主義の内容

課税要件法定主義

課税要件法定主義とは、課税要件と課税手続は法律で定めなければならないという考え方である。「課税要件」とは、誰にどのような税金がいくら発生するかを決める基準である。課税要件の具体例は、納税義務者、課税物件、課税標準、税率である。「課税手続」とは、国又は地方公共団体が行う租税の賦課・徴収の手順である。

課税要件明確主義

課税要件明確主義とは、課税要件法定主義に基づき法律で定められた規定が、誰でも読み取れるように明確でなければならないという考え方である。

国民健康保険料

前述のとおり、租税とは、「国又は地方公共団体が強制的に徴収する金銭」である。よって、強制的に徴収する金銭でも、それが「特別の給付に対する反対給付」として徴収されていれば、それは租税ではない。例えば、国民健康保険料は、医療保険料の一部負担という特別の給付の反対給付として地方公共団体が住民から徴収するものであるから、租税ではない。

よって、国民健康保険料の徴収に関しては、84条は直接適用されない。もっとも、国民健康保険料の徴収も租税の徴収と類似したものであるので、国民健康保険料の徴収について84条の趣旨を及ぼすべきではないかが問題となる。

これに関して判例は、旭川市国民健康保険条例事件(最大判平成18年3月1日)において、「租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである」としている。

財政支出に関する原則

国会の議決

85条は国費の支出及び国の債務の負担につき、国会の議決が必要であると規定している。

公金支出制限

89条前段は、宗教団体への公金の支出を禁止して、政教分離を財政面から保障している。

これに対し、89条後段は公の支配に属しない事業への公金の支出を禁止している。この89条後段の趣旨の捉え方に関しては、自主性確保説と公費濫用防止説がある。

自主性確保説は、89条後段の趣旨を、公権力の私的事業への介入を防ぐことにあると解する説である。これに対し、公費濫用防止説は、89条後段の趣旨を、公費の濫用を防ぐことにあると解する説である。

これらの説いずれを採るかで、89条の「公の支配」の程度がかわる。

すなわち、自主性確保説では、「公の支配」とは、公権力の強度な監督が及んでいることを意味する。なぜなら、私的事業に公権力の強度な監督が及んでいれば、その事業にはもともと公権力による介入が予定されているので、89条後段で自主性を確保をする必要性が低いからである。

これに対し、公費濫用防止説では、「公の支配」とは、公費が濫用されないという目的が達せられる程度に監督が及んでいればよいとされる。

よって、「公の支配」という公権力の監督の程度は、自主性確保説の方が公費濫用防止説より強い。

予算

内容

予算とは、一会計年度において、国が財政で守るべきルールである。予算は内閣が作成した後、国会の承認を受けて成立する(86条)。

また、予算に基づいて行われた財政の結果を決算と言う。決算は、一会計年度終了後に会計検査院の検査を受けた後、次年度に国会に提出される(90条)。

法的性格

予算は国会の議決を経るという点で法律と共通するが、一般国民を拘束するものでない点においては法律と異なる。そこで、予算の法的性質をどのように捉えるべきか問題となる。

これに関しては下記の説がある。

  • 予算行政説
  • 予算法形式説
  • 予算法律説

予算行政説

予算行政説は、予算を行政権の作用と捉える。この説に対しては、予算に対する国会のコントロールが弱くなるので、財政民主主義の観点から妥当でないという指摘がされる。

予算法律説

予算法律説は、予算を法律と捉える。この説を採ると、59条1項の「特別の定」として、60条が位置づけられることになる。

第59条 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
② 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
③ 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
④ 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

第60条 予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
② 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

予算法形式説

予算法形式説では、予算は法律ではないが、特殊な法形式であると捉える。この説は、59条とは別に60条が設けられていることを、予算が法律とは異なるものであることの根拠とする。

予備費

予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任で支出することができる(87条1項)。そして、予備費の支出は事後に国会の承諾が必要である(87条2項)。

財政状況報告

内閣は、国会及び国民に対し、財政状況の報告をしなければならない(91条)。

地方自治

意義

地方自治とは、地方公共団体の行う政治である。地方公共団体とは都道府県や市町村などである。

憲法第8章は地方自治について規定している。地方自治に関する問題は、国政に関する問題よりも身近である。よって、地方自治には民主主義に触れる基盤を国民に提供するという民主主義的意義がある。また、地方自治には、地方に権限を分散させることで権力を分立させるという自由主義的意義もある。

地方自治の本旨

92条には「地方自治の本旨」という言葉がある。地方自治の本旨とは、住民自治及び団体自治を意味すると解される。

第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

住民自治

住民自治とは、地方公共団体の運営を、その住民の意思に基づいて行うことである。そして、住民自治は民主主義的意義を実現するものである。

住民自治が現れる規定には次のものがある。

  • 地方公共団体の長や議会議員の直接選挙(93条2項)
  • 地方公共団体の特別法に関する住民投票(95条)

団体自治

団体自治とは、地方公共団体の運営を、国の関与なしで行うことである。そして、団体自治は自由主義的意義を実現するものである。

団体自治が現れる規定には次のものがある。

  • 地方公共団体の議会設置(93条1項)
  • 地方公共団体の財産管理、事務処理、行政執行、条例制定の権限(94条)

地方公共団体の機関

93条2項は、地方公共団体の長と議会議員は住民が直接選挙することを規定する。

地方自治特別法

95条は、特定の地方公共団体にのみ適用される法律は、その地方公共団体の住民の過半数の同意がなければ制定できないと規定する。これは国会単独立法の原則の例外である。

なお、特定の地方公共団体にのみ適用される法律は、地方自治特別法と呼ばれる。

条例

内容

条例とは地方公共団体により作成され、その地方公共団体で適用される法である。94条は地方公共団体が法律の範囲内で条例を定めることができる旨を規定している。条例は法律と同じく議会の議決という民主的な手続きを経て制定されるものである。そこで、憲法の条文上、「法律」で定めると規定されている、次のものを条例で定めることができるかが問題となる。

  • 財産権の内容(29条2項)
  • 刑罰権(31条、73条6号)
  • 租税(84条)

財産権の内容(29条2項)

29条2項は、財産権の内容を法律で定めるとしているが、これには条例も含むと解される。なぜなら、29条2項が「法律」で定めることを要求する趣旨は、行政による恣意的な財産権の制限を抑止することにあるからである。すなわち、法律と同様に民主的プロセスを経て制定される条例によって財産権を定めても、行政の恣意的な運用は防止できる。そして、このように解せば、地域の実情に応じた財産権の制限が可能となる。

【関連判例】

  • 奈良県ため池条例事件(最大判昭和38年6月26日)

刑罰権(31条、73条6号)

31条及び73条6号は、法律で刑罰を規定することを要求している。そこで、条例で刑罰を定めることができるかが問題となる。これに関して、判例は、大阪市条例事件(最大判昭和37年5月30日)において、次のように判事した。

「憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものでなく、法律の授権によつてそれ以下の法令によつて定めることもできると解すべきで」ある。

もっとも、条例で無制限に刑罰を定めることができるわけではない。条例で刑罰を定めるには、「法律による相当程度具体的な委任」が必要であると解される。(参考:地方自治法14条3項)

なお、条例ではなく、73条6号に基づいて政令で刑罰を定めるには、「法律による個別具体的な委任」が必要であると解される。

地方自治法

第14条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。
② 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。
③ 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮こ、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

租税(84条)

84条は租税法律主義を規定しているが、条例に基づいて租税を課すことも許されると解される。なぜなら、租税法律主義の趣旨は、行政による恣意的な課税を抑止することにあるからである。すなわち、法律と同様に民主的プロセスを経て制定される条例によって課税しても、行政の恣意的な運用は防止できる。そして、このように解せば、地域の実情に応じた課税が可能となる。

法律の範囲内

94条は「法律の範囲内」で条例を制定できるとしている。そこで、条例で次のことができるかが問題となる。

  • 法律よりも厳しい基準を設けることができるか。
  • 法律より広い範囲で規制を設けることができるか。

※なお、法律より厳しい基準を設けた条例を「上乗せ条例」、法律より広い範囲の規制を設けた条例を「横出し条例」という。

この問題に関する判例には徳島市公安条例事件(最大判昭和50年9月10日)がある。

徳島市公安条例事件(最大判昭和50年9月10日)

事案

この事件は、集団行進を行った者が、集団行進時の行動が道路交通法及び徳島市公安条例違反であることを理由に起訴された事案である。

判旨

「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによつてこれを決しなければならない。例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるし、逆に、特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によつて前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないときや、両者が同一の目的に出たものであつても、国の法令が必ずしもその規定によつて全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾牴触はなく、条例が国の法令に違反する問題は生じえない」。

解説

第1審判決は、条例は法令に反しない限りで制定できるので、本件条例で規制できるのは道路交通法の規制される行為以外の行為であるとした。その上で、本件条例は規制できる行為の内容が不明確であるとして、31条の趣旨に反するとした。また、第2審判決も同様の判断をした。

これに対し、最高裁は、どのような場合に条例が法令に反することになるかについての判断基準を示した。その判断基準を要約すると、次のようになる。

まず、ある行為について、法令による規制がない場合は、原則条例で規制できる。しかし、その場合でも法令が、条例で規制をするべきでないという趣旨を有していれば、条例で規制はできない。

次に、ある行為について法令による規制がある場合、法令と条例の規制の目的が異なるときは、条例によって法令の目的・効果を阻害するものでない限り、条例による規制が許される。

さらに、ある行為について法令による規制がある場合、法令と条例の規制の目的が同じであれば、法令が、全国一律に同一の規制をするのでなく、地方の実情によって規制の差異をもたらすことを容認している限り、条例による規制が許される。

以上の判例の見解からすると、「上乗せ条例」及び「横出し条例」が許容される場合がある。

憲法改正

96条は憲法改正手続きについて規定している。

第96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
② 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

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