目次
法の下の平等
意義
14条1項は法の下の平等を定めている。かつての身分制度の下では、人は生まれながらに差別されていた。このようなことが起こらないように、憲法で国家権力に対し、国民を平等に扱うことを要求している。
ここで、14条1項は「国民は、法の下に平等であ」るとだけ規定しているので、「法の下」及び「平等」の意味について解釈する必要がある。
「法の下」
14条1項の「法の下」とは、法の適用及び法の内容が平等であることを意味する。「法の適用が平等である」とは、法を執行する際に国民を差別して、執行・不執行を決めてはならないことを意味する。また、「法の内容が平等である」とは、法の中身が国民を差別したものであってはならないことを意味する。
仮に、14条1項を文理解釈すれば、「法の適用が平等である」ことだけが求められる。しかし、このような解釈をすると、法の中身で国民を差別できてしまい、14条1項の趣旨が骨抜きになる。よって、「法の内容が平等である」ことも論理解釈上要求される。
「平等」
14条1項の「平等」とは、相対的平等を意味する。相対的平等とは、同一事情・同一条件の下では、国民を平等に扱うことをである。すなわち、国民を合理的に区別することは許される。
相対的平等と対になる概念として、絶対的平等がある。絶対的平等とは、国民の事情・条件に関係なく、国民を平等に扱うことである。
例えば、国家が国民に税金を課す場合、「国民一人当たりいくら」というように課税する(均等割)ことは絶対的平等といえる。
これに対し、「国民の所得の10%に課税する」方法のように、国民の所得に応じて課税する(所得割)ことは相対的平等といえる。この課税方式では、所得が同じ者は、同じ税金が課される。しかし、所得がより高い者は、より高い税金が課される。このように相対的平等では、所得が異なる者の間で税金が異なることは、合理的な区別として許される。
実質的平等
平等の要請が出てきたのは、元は身分制度への反発であった。身分制度における差別をなくすことで、形式的平等が保障された。形式的平等とは、個人の機会の平等をいう。しかし、資本主義の発展により社会的・経済的弱者の救済が必要となり、実質的平等の実現が求められるようになった。実質的平等の実現とは、国家による積極的な格差是正措置をいう。
しかし、14条1項の「平等」は実質的平等まで意味するものではないと解される。この場合、実質的平等の実現は社会権(25条など)の条項に委ねられていると考えられる。
法の下の平等の判例
サラリーマン税金訴訟(最大判昭和60年3月27日)
事案
給与所得者と事業所得者の課税方法が異なる旧所得税法が14条1項に違反するかなどが争われた。
判旨
「租税法の定立については、・・・立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ない」。「租税法の分野における・・・区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、」憲法14条1項に反しない。
解説
旧所得税法は14条1項に反しないと判示された。また、判例の基準では租税法の区別の違憲審査基準は緩やかなものであると解される。
学生無年金障害者訴訟(最判平成19年9月28日)
事案
障害を負った時点で20歳を超えていた学生が、国民年金に未加入であったため、障害年金が受給できなかった。そこで、学生とそれ以外の者で差異を設けていた国民年金法が憲法14条1項違反であるかなどが争われた。
判旨
「国民年金制度」において、「どのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄である」。「もっとも、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするときは別に憲法14条違反の問題を生じ得る」。
解説
国民年金法は14条1項に反しないと判示された。なお、判例の基準では国民年金制度における立法措置の違憲審査基準は緩やかなものであると解される。
国籍法3条1項違憲判決(最大判平成20年6月4日)
事案
旧国籍法3条1項は、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子について、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した(準正のあった)場合に限り届出による日本国籍の取得を認めていた。この規定が、認知されたにとどまる子と準正のあった子を差別し、14条1項に違反するか争われた。
※法の下の平等の判例は民法の学習が終わらないと理解できないものでが多いので、民法の学習がまだの場合は理解出来なくてよい。
判旨
「日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が、合理的理由のない差別的取扱いとなるときは、憲法14条1項違反の問題を生ずる」。「そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には、当該区別は、合理的な理由のない差別として、同項に違反するものと解される」。
「本件区別については、これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められる」。しかし、「本件区別については、・・・立法目的との間において合理的関連性があるものということはもはやできない。」
解説
国籍法旧3条1項による区別の目的には合理的な根拠があるとした。しかし、区別につき立法目的との関係で合理的な関連性がないとして、国籍法旧3条1項の、準正を国籍取得の要件としている部分が14条1項に反し無効であるとされた。
非嫡出子相続分差別規定違憲判決(最大決平成25年9月4日)
事案
非嫡出子の相続分が、嫡出子の2分の1であることを規定した民法旧900条4号但書が14条1項に違反するか争われた。
判旨
「相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断に委ねられている」。
「嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別」「に合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、憲法14条1項に違反する」。
解説
嫡出子とは婚姻関係にある男女から生まれた子を指す。そして、非嫡出子とは婚姻関係にない男女から生まれた子を指す。
判例は、当該区別につき家族形態の多様化や、嫡出・非嫡出いずれの身分を取得するかは子が選択・修正できない事情などを考慮すると当該区別に合理的な根拠がないとし、当該規定を無効とした。
再婚禁止期間違憲訴訟(最大判平成27年12月16日)
事案
女性につき6ヶ月の再婚禁止期間を定めていた民法旧733条1項が14条1項に違反するかが争われた。
判旨
「婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするか・・・のような婚姻をするについての自由は、憲法24条1項の規定の趣旨に照らし、十分尊重に値する」。
「本件規定が再婚をする際の要件に関し男女の区別・・・をすることの立法目的に合理的な根拠があり、かつ、その区別の具体的内容が・・・立法目的との関連において合理性を有するものであるかどうかという観点から憲法適合性の審査を行う」。
解説
判例は、子に対して、重複して夫の子と推定されることを避ける制度である本件規定の立法目的には合理的な根拠があるとした。しかし、再婚禁止期間につき100日を超える部分は立法目的との関係において合理性がないとし、本件規定の100日を超える部分を14条1項及び24条2項に違反し、無効とした。
※民法学習後に再度確認するとわかるようになる。
夫婦別姓訴訟(最大判平成27年12月16日)
事案
民法750条が夫婦同氏(どうし)制を規定していること及び夫婦大多数が夫の氏を選択していることを考慮すれば、女性に氏の変更を強制させ、不利益な取り扱いをしていることが14条1項に違反するか争われた。なお、他にも13条及び24条にも違反するかも争われた。
判旨
「本件規定は、・・・その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく、本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。」
解説
判例は民法750条が、13条、14条1項及び24条いずれにも違反しないとした。
社会的身分による差別
- 尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭和48年4月4日)
その他の差別
- 衆議院議員定数不均衡訴訟(最大判昭和51年4月14日)
- 衆議院議員定数不均衡訴訟(最大判平成23年3月23日)
- 衆議院議員定数不均衡訴訟(最大判平成27年11月25日)
- 参議院議員定数不均衡訴訟(最大判平成24年10月17日)