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憲法基本書

憲法10(社会権・生存権・教育を受ける権利・労働基本権)

社会権

社会権とは、国民が国家に対して保障を要求する権利である。具体的には、社会的・経済的弱者を保護するため人権である。

そして、社会保障制度の整備を通じて国民の生活の安定を図る国家のあり方を福祉国家という。これに対し、国家の役割を、外交や通貨などの必要最小限度のものにとどめるという考え方を夜警国家という。

社会権については様々なものがあるが、ここでは下記を説明する。

  • 生存権(25条)
  • 教育を受ける権利(26条)
  • 労働基本権(28条)

生存権

法的性格

25条は、国民が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むことを保障している。この、国民が「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を生存権という。

そして、生存権が国に対しどのような義務を定め、また国民にどのような権利を保障しているかについては解釈によることになる。つまり、生存権の法的性格については複数の考え方が存在する。

生存権の法的性格については、まず、生存権に法規範性があるか否かで分かれる。法規範性を有しないとするのが、プログラム規定説である。

なお、生存権(25条)に法規範性があると、25条は国家を拘束することになる。

そして、生存権に法規範性があるとすれば、生存権という権利が抽象的権利か、または、抽象的権利にとどまらず、具体的権利であるかで分かれる。生存権を抽象的権利とする説を、抽象的権利説といい、生存権を具体的権利とする説を、具体的権利説という。

※なお、仮に25条に法規範性だけでなく、裁判規範性まであるとすれば、裁判において、法律が25条1項に違反していると争える。

プログラム規定説

プログラム規定説によれば、25条1項は国に政治的義務を課したに過ぎないことになる。よって、生存権を確保するための法律の規定がないとしても、国民は国に対し、立法政策、金銭給付、国家賠償請求など一切できない。

抽象的権利説

抽象的権利説は、25条1項に法規範性があるとする説である。よって、国が25条1項に反する法律を作ることは許されない。また、生存権を確保するための法律がない場合、国に対し25条1項に基づいて給付請求をすることはできないが、立法不作為につき、国家賠償請求をする余地はある。

※国家賠償請求は行政法で学習する。

具体的権利説

具体的権利説は、25条1項に法規範性及び裁判規範性があるとする説である。具体的権利説では、立法不作為の場合に国家賠償請求だけでなく、不作為の違憲確認訴訟を提起できる。しかし、具体的権利説に立っても、25条1項を直接の根拠として具体的給付を請求することはできない。

※不作為の違憲確認訴訟は民事訴訟法を一通り学習すると理解できるものである。民事訴訟法を学習する予定がない場合は深入りしない。

朝日訴訟(最大判昭和42年5月24日)

事案

生存権の重要判例には、朝日訴訟がある。この事案では、生活保護法に基づく生活扶助等を受給していた者が、兄から仕送りを受けたという理由で生活扶助等を打ち切られたことの合憲性が争われた。

判旨

「憲法25条1項は、・・・すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない」。「具体的権利としては、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によつて、はじめて与えられている」。

「何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあつても、直ちに違法の問題を生ずることはない。ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となる」。

解説

判例は、本件生活扶助の打ち切りには、裁量権の逸脱乱用がないとして、合憲であるとした。なお、判例が前述の生存権の法的性格の説のうち、いずれの説に立っているかは定かではない。

堀木訴訟(最大判昭和57年7月7日)

事案

障害福祉年金と児童扶養手当の併給を認めない児童扶養手当法の規定が25条等に反するか争われた。

判旨

憲法25条の規定の「『健康で文化的な最低限度の生活』なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であつて、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たつては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがつて、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない」。

解説

判例は、本件併給禁止規定は、立法府の裁量の範囲内とし、25条等に反しないとした。

教育を受ける権利

内容

26条1項は教育を受ける権利を保障している。

教育を受ける権利とは、具体的には、次のものを保障することである。

  • 国民が教育を受けて学習すること。
  • 国民が、国に教育設備・施設等の教育条件の整備を請求すること。

教育権の所在

教育権とは、教育内容の決定権を指す。教育権を誰が有しているかにつき、判例は、旭川学テ事件(最大判昭和51年5月21日)において次のように判示した。

「親は、・・・子どもの教育に対する一定の支配権、すなわち子女の教育の自由を有すると認められる」。「また、私学教育における自由や・・・教師の教授の自由も、それぞれ限られた一定の範囲においてこれを肯定するのが相当である」。「それ以外の領域においては、・・・国は、・・・必要かつ相当と認められる範囲において、教育内容についてもこれを決定する権能を有する」。

義務教育の無償

26条2項後段は義務教育の無償を定めている。これに関しては、義務教育に関する費用のうち、どこまで無償となるかが問題となる。

判例は、教科書費国庫負担請求事件(最大判昭和39年2月26日)において、26条2項後段の「無償」とは、授業料不徴収を意味するとした。

※なお、教科書代金の無償については法律で別途定められている。

労働基本権

意義

28条は、勤労者の労働基本権を保障している。労働基本権は団結権、団体交渉権及び団体行動権から構成される。

使用者と労働者は私人同士であるから、立憲的意味の憲法の観点からすると、これらの関係について憲法が規定する必要はない。しかし、私人同士とはいえ、実際には使用者は労働者より優位な立場にある。そこで、28条は労働者に労働基本権を保障した。

なお、公務員は労働基本権について一定の制約を受ける(公務員の労働基本権参照)。

団結権

団結権とは、労働者が団体を組織する権利である。

団体交渉権

団体交渉権とは、労働者団体が使用者と労働条件について交渉する権利である。

団体行動権

団体行動権とは、労働者団体が労働条件改善のために行動をする権利である。

 

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