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人身の自由
人身の自由とは、国民が国家から不当に身体拘束を受けない自由である。人身の自由については、18条、31条ないし40条で詳細に規定されている。人身の自由については、次のものが主な論点である。
- 31条の解釈に関する適正手続の保障。
- 人身の自由が行政手続に及ぶか。
適正手続の保障
内容
31条は、人を拘束する場合には、法律で定められた手続によることを要求している。これは国家権力が恣意的に人を拘束すること防止する趣旨である。しかし、法律に従って手続がされても、その法律の内容自体が人権を侵害するものであれば、31条の趣旨は没却される。よって、31条は下記の次のことも併せて要求していると解される。
- 手続が法律で定められている。
- 法律で定められた手続が適正である。
- 実体が法律で定められている(罪刑法定主義)。
- 法律で定められた実体が適正である。
なお、「実体」とは、どのような場合に刑罰が科されるかを規定したものである(例:刑法)。「手続」とは刑罰が科されるための過程を規定したものである(例:刑事訴訟法)。
明確性の原則
適正手続を保障した31条から、犯罪の成立要件について明確性の原則が要求される。すなわち、刑罰を定めた法律には、どのような場合に刑罰が科されるかが分かりやすく記載されなければならない。もっとも、刑罰を定めた法律を読み解く力は個人によって異なる。そこで、どの程度まで分かりやすく規定する必要があるかが問題となる。
これに関して判例は、徳島市公安条例事件(最大判昭和50年9月10日)において、刑罰を定めた法律が明確性の原則に反するか否かは、「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである。」とした。
告知と聴聞
31条の適正手続を保障を、より実効性のあるものするには、告知と聴聞が必要である。告知・聴聞とは、国民に刑事罰や不利益を課す場合に、事前にその内容や理由を伝え、弁解・防御の機会を与えることである。
【関連判例】
- 第三者所有物没収事件(最大判昭和37年11月28日)
行政手続への適用
問題の所在
31条、35条、38条などの人身の自由に係る憲法の規定は、刑事手続を念頭に置いたものである。しかし、行政手続においても国民の権利利益が侵害されることがあり得る。そこで、人身の自由に関する規定が行政手続にも適用されるかが問題となる。
※「行政手続」は行政法で学習する。
31条
31条の行政手続への適用について、判例は、成田新法事件(最大判平成4年7月1日)において、次の通り判示した。
「憲法31条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解する」。
これを要約すると、31条の規定は刑事手続に関するものであるが、行政手続にも及ぶ場合がある。もっとも、刑事手続と行政手続では性質が異なり、また行政手続は多種多様であるから、行政手続に31条が及ぶか否かは行政手続の性質によって決まるということである。
35条
35条の行政手続への適用につき、判例は、川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日)において、次の通り判示した。
「憲法35条1項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。」
38条
38条の行政手続への適用につき、判例は、川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日)において、次の通り判示した。
憲法38条による「保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、ひとしく及ぶものと解する」。
受益権
受益権とは、国民が国家に対し利益を受けることを請求する権利である。ここでは、請願権、裁判を受ける権利、国家賠償請求権及び刑事補償請求権について説明する。
請願権
請願権とは国や地方公共団体に対し、要望や苦情を申し立てることのできる権利である。国や地方公共団体は請願に対し誠実に対応することが求められる。しかし、国や地方公共団体に対する法的拘束力までも有するものではない。
裁判を受ける権利
裁判を受ける権利とは、民事事件及び行政事件においては、自己の権利救済のために裁判所に救済を求めることができる権利を、刑事事件においては、裁判所による裁判によらなければ刑罰を科されない権利をいう。
国家賠償請求権
内容
17条は公務員の不法行為により国民が被害を受けた場合、国または公共団体がその公務員に代わって国民に賠償する旨(代位責任)を規定したものであると解されている。
そして、17条で保障される国家賠償請求権は、国家賠償法により具体化されている。
郵便法免責規定違憲判決(最大判平成14年9月11日)
国家賠償法に関する重要判例には、郵便法免責規定違憲判決(最大判平成14年9月11日)がある。
事案
この事件では、郵便物の取り扱いに関して、損害賠償の主体及び対象に制限を加えた郵便法の規定が17条に反するか争われた。
判旨
「公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除し、又は制限する法律の規定が同条に適合するものとして是認されるものであるかどうかは、当該行為の態様、これによって侵害される法的利益の種類及び侵害の程度免責又は責任制限の範囲及び程度等に応じ、当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段として免責又は責任制限を認めることの合理性及び必要性を総合的に考慮して判断すべきである。」
解説
判例は、郵便法の目的を、郵便の役務を安く、あまねく、公平に提供することにあるとした上で、その目的を達成するために免責規定を置くことは正当であるとした。しかし、郵便法による損害賠償の制限が目的達成の手段として合理性がないとした。
すなわち、まず、書留郵便については、郵便業務従事者の軽過失による不法行為の場合に損害賠償責任を免除し又は制限することはやむを得ないが、郵便業務従事者の故意又は重大な過失の場合まで免責又は責任制限を認める規定に合理性がないとした。
これは、書留郵便の場合、次の事柄が考慮されたものである。
- 郵便業務従事者の故意または重過失による不法行為がされる場合は多くない。
- 他の運送関連事業の法令では故意または重過失の場合に免責されていない。
次に、特別送達郵便物については、郵便業務従事者の軽過失の場合に損害賠償責任を免除し又は制限することに合理性、必要性がないとした。
これは、特別送達郵便の場合、次の事柄が考慮されたものである。
- 特別送達郵便は書留郵便物に属するが、書留郵便物全体のごく一部に過ぎない上に、書留郵便の料金に上乗せされた料金である。
- 裁判関係の書類の特別送達において、差出人は裁判所書記官等であるから、送達の恩恵を受ける者は他の送付手段を有していない。
刑事補償請求権
40条は、犯罪捜査等のために身体拘束を受けた後、無罪となった者は、国による金銭賠償が受けられることを規定している。
参政権
内容
参政権とは、国の政治に参加する権利である。国の政治に参加するとは、具体的には選挙権及び被選挙権の行使を指す。選挙権とは、選挙で代表者を選ぶことであり、被選挙権とは、自ら立候補して政治に参加することである。
選挙権に関する原則
普通選挙(15条3項)
保有財産や人種などを選挙権の要件としないことを指す。⇔制限選挙
秘密選挙(15条4項)
誰に投票したかを秘密にする制度。⇔公開選挙
直接選挙(93条2項)
選挙人が公務員を直接に選挙する制度。⇔間接選挙
平等選挙(14条、44条但書)
選挙権の価値を平等とする制度。⇔複数選挙、等級選挙
自由選挙
選挙権の行使を棄権しても制裁を科されない制度。⇔強制選挙
在外日本国民選挙権訴訟(最大判平成17年9月14日)
参政権に関しては、在外日本国民選挙権訴訟(最大判平成17年9月14日)が重要判例である。
事案
この事件では、国外に居住して、市町村に住所を有していない日本国民への、国政選挙における選挙権への制限する公職選挙法の規定が憲法15条等に反するか争われた。なお、「国外に居住して、市町村に住所を有していない日本国民」を在外国民という。
判旨
「憲法の以上の趣旨にかんがみれば、・・・国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない」。「そして、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反する」。
解説
判例は、在外国民の選挙権に関する公職選挙法の規定はやむを得ない事由がないとして、違憲であるとした。
被選挙権(立候補の自由)
15条1項は、選挙権について規定しているが、被選挙権や立候補の自由について明記していない。
これに関して、判例は、三井美唄(びばい)炭鉱労組事件(昭和43年12月4日)において、次のように判示している。
「立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。このような見地からいえば、憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。」