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憲法基本書

憲法8(居住、移転の自由・職業選択の自由・財産権)

居住・移転の自由

内容

居住・移転の自由とは、自己の住む場所を自由に決定し、移動する自由を指す。

居住・移転の自由は、自由な経済活動の保障に役立つので、経済的自由権と解される。もっとも、自由な移動により様々な人との交流が可能となるので、精神的自由権の側面もある。

海外渡航の自由

判例は、海外渡航の自由は22条2項で保障されるとしている。

【関連判例】

  • 帆足計事件(最大判昭和33年9月10日)

国籍離脱の自由

22条2項で国籍離脱の自由が保障されている。

職業選択の自由

内容

職業選択の自由とは、自己の希望する職業に就く自由である。また、職業選択の自由には営業の自由も含まれると解されている。営業の自由とは、自己が選んだ職業を遂行する自由である。

職業選択の自由の限界

営業活動を無制限に認めると、社会に大きな弊害がもたらされる危険がある。(例:工場稼働により発生する排水を無制限に認めれば、海が汚染され、周辺住民に健康被害が出る。)よって、営業活動を含む職業選択の自由は一定の制約を受ける。

また、職業選択の自由は経済的自由権であるので、二重の基準論によれば、職業選択の自由に対する規制は、精神的自由権より緩やかな違憲審査基準で審査される。

さらに、職業選択の自由による規制の合憲性の判断においては、規制の種類によって異なる違憲審査基準が適用されることがある。この「規制の種類」には、消極目的規制と積極目的規制がある。このように規制目的を消極目的と積極目的に分類し、それぞれ異なる違憲審査基準を用いることを規制目的二分論という。ただし、規制の中には、消極目的規制と積極目的規制いずれの要素を含むものもある。

消極目的規制

内容

消極目的規制とは、国民の生命及び健康に対する危険を防止するための規制である。例えば、医師免許制度や食品衛生法による規制がある。

基準

消極目的規制に対しては、積極目的規制における基準より厳しい基準で違憲審査をする。具体的には、「立法目的を達する上で、より制限的でない緩やかな手段がある場合は違憲とする基準」を用いる。消極目的規制の違憲審査基準が、積極目的規制の違憲審査基準より厳しいということは、消極目的規制は、積極目的規制より違憲となりやすいことを意味する。

積極目的規制

内容

積極目的規制とは、調和のとれた経済発展を目的とする、社会的・経済的弱者保護のための規制である。例えば、電気事業や水道事業に対する規制がある。

基準

積極目的規制に対しては、「規制が著しく不合理であることが明白である場合に限って違憲とする基準」で違憲審査をする。この基準で規制の合憲性を判断した場合、規制が著しく不合理でなければ合憲となるので、違憲判断が出にくい。

【関連判例】

  • 小売市場距離制限事件(最大判昭和47年11月22日)
  • 酒類販売の免許制(最判平成4年2月15日)
  • 公衆浴場距離制限事件(最判平成元年3月7日)

薬事法距離制限事件(最大判昭和50年4月30日)

事案

この事件では、薬事法の定める許可制及び適正配置規制が22条1項に反するか争われた。

判旨

「一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要」する。「また、それが・・・消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によつては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要する」。

解説

判例は、薬事法の許可制は、公共の福祉に適合する目的のための必要かつ合理的措置とし、合憲とした。しかし、薬事法の配置規制は、不良医薬品の供給の防止等の目的のために必要かつ合理的な規制を定めたものということができず、憲法22条1項に違反するとした。

これは薬事法における適正配置規制が消極目的規制であることを前提に、「より制限的でない方法」で規制し得ると判断したからである。

小売市場距離制限事件(最大判昭和47年11月22日)

事案

この事件では、小売市場(こうりしじょう)を開設する際に適正配置を要求する小売商業調整特別措置法の規定が22条1項に違反するかが争われた。

判旨

「憲法は、国の責務として積極的な社会経済政策の実施を予定しているものということができ、個人の経済活動の自由に関する限り、・・・これに一定の合理的規制措置を講ずることは、もともと、憲法が予定し、かつ、許容するところと解する」。「国は、・・・社会経済全体の均衡のとれた調和的発展を図るために、立法により、個人の経済活動に対し、一定の規制措置を講ずることも、それが右目的達成のために必要かつ合理的な範囲にとどまる限り、許されるべきであ」る。

「裁判所は、・・・立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限つて、これを違憲と」する。

解説

判例は、小売市場の適正配置規制を積極目的規制とした上で、本件規制は著しく不合理であることが明白でないから、合憲であるとした。

酒類販売の免許制(最判平成4年12月15日)

事案

この事件では、酒類販売における許可制が22条1項に反しないか争われた。

判旨

「租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法22条1項の規定に違反するものということはできない。」

解説

判例は、「租税の適正かつ確実な徴収という目的のための規制は、著しく不合理でない限り合憲である」という判断枠組みを示したうえで、本件許可制を合憲とした。なお、判例は、本事案において規制目的二分論を軸に判断をしていない。

違憲判断の主体

規制目的二分論では、国民の生命及び健康に対する危険を防止するための規制(消極目的規制)が違憲となり易く、逆に、社会的・経済的弱者保護のための規制(積極目的規制)が合憲となり易い。

しかし、後者より前者の方を合憲となり易くして、国民の生命及び健康を保護すべきではないかという疑問が湧く。

なぜこのような結論になるかというと、これは違憲判断をするべき主体が異なるからである。すなわち、積極目的規制については財源の確保や専門技術的な判断が必要となるので、裁判所が判断するより行政や立法で解決する方が望ましい。また、積極目的規制は当・不当の問題になり易く、他方で、消極目的規制は合法・違法の問題になり易いので、消極目的規制は裁判所の判断になじむ。

財産権

内容

29条1項は、個人の具体的財産が、国家から正当な理由なく、はく奪されない自由を保障している。また、29条1項は国民の財産保護を目的として、私有財産制度を保障していると解される(制度的保障)。

公共の福祉による制限

29条2項は、財産権が公共の福祉による制限を受けることを規定している。この「公共の福祉」は、自由国家的公共の福祉及び社会国家的公共の福祉の両方の意味を有すると解される。なお、自由国家的公共の福祉とは消極目的規制を、社会国家的公共の福祉とは積極目的規制を指す。

また、29条2項は、財産権の内容を「法律」で定めるとしているが、この「法律」には条例も含まれると解される。これは、29条2項が「法律」に基づく制限を要求している趣旨を、行政による恣意的な財産権の制限を抑止するためと解すれば、法律と同様に民主的プロセスを経て制定される条例によって財産権を制限することも許容されるべきだからである。そして、条例で定めることを認めれば、地域の実情に応じて柔軟に財産権の制限が可能となる。

森林法事件(最大判昭和62年4月22日)

事案

森林の共有者で、持分が2分の1以下を有している者が共有物分割請求をできない旨を定めた森林法の186条が、憲法29条に反するか争われた。なお、民法256条では共有物分割請求ができる共有者について制限を設けていないので、森林法186条は民法256条の特別法であった。

※「共有」や「持分」については民法で学習する。

判旨

「財産権に対して加えられる規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によつて制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきものである」。「立法の規制目的が・・・公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、・・・規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであつて、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法29条2項に違背する」。

解説

判例は、森林法186条の目的は合憲であるとした。しかし、森林法186条による規制は立法目的との関係において合理性及び必要性がないので、29条2項に違反するとした。

なお、判例は、本事案では規制目的二分論を軸に判断をしていない。

奈良県ため池条例事件(最大判昭和38年6月26日)

事案

ため池の堤とうに、農作物を植えるなどの行為をした者を罰金に処する条例が29条2項、3項に反するかが争われた。

判旨

「ため池の破損、決かいの原因となるため池の堤とうの使用行為は、憲法でも、民法でも適法な財産権の行使として保障されていないものであつて、憲法、民法の保障する財産権の行使の埒外にある」。「災害を防止し公共の福祉を保持する上に社会生活上已むを得ないものであり、そのような制約は、ため池の堤とうを使用し得る財産権を有する者が当然受忍しなければならない責務というべきものであつて、憲法29条3項の損失補償はこれを必要としない」。

解説

判例は、ため池による災害の危険を伴う、ため池の堤とうの使用について、そのような使用をする権利は、憲法上保障された権利でないとした。また、本件条例による規制はため池の使用者が受忍すべき当然の義務として、29条3項の損失補償は不要とした。

正当な補償

補償の要否

29条3項は、「正当な補償」の下に私有財産を公共のために用いることができることを規定している。しかし、必ずしも「正当な補償」が要るという訳ではない。正当な補償が必要か否かは二段階審査を経て判断すべきと解される。二段階審査とは、まず形式的基準に照らし、次に実質的基準に照らす過程を踏むことである。

形式的基準においては、まず侵害行為の「対象が特定されているか」をみる。ここで、その対象が不特定であれば補償は不要となる。

逆にその対象が特定されていれば、次に実質的基準に照らす。実質的基準においては、その侵害行為が、財産権に内在する社会的制約かをみる。ここで、財産権に内在する社会的制約であれば補償は不要となる。

そして、財産権に内在する社会的制約でなければ、「正当な補償」が必要となる。なお、「財産権に内在する社会的制約ではない」ことは、「侵害行為が財産権の本質を侵害するほどの強度な制約である」ことも意味する。

補償の額

補償の額については、完全補償説と相当補償説がある。

補償の根拠

財産権の補償に関しては、29条3項に基づいて、法律で規定されているのが通常である。よって、行政が財産権の制約を伴う行為をする場合、通常その法律に基づき補償をすることになる。もっとも、仮に財産権の保障を規定した法律がなくても、29条3項に基づいて補償請求できると解される(判例)。

判例は、河川附近地制限令事件(最大判昭和43年11月27日)で次のように判示した。

財産権を制限した根拠法令に「損失補償に関する規定がないからといつて、・・・一切の損失補償を全く否定する趣旨とまでは解されず、・・・直接憲法29条3項を根拠にして、補償請求をする余地が全くないわけではない」。

【関連判例】

  • 農地改革事件(最大判昭和28年12月23日)
  • 土地収用補償金請求事件(最判平成14年6月11日)

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